電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第520回

インフォーマインテリジェンス合同会社 シニアコンサルティングディレクター 南川明氏


次世代開発のスピード感がカギ
半導体市場は23年3%減と予想

2023/4/7

インフォーマインテリジェンス合同会社 シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
 いまや半導体は各国の最重要競争軸に位置づけられ、スピード感ある戦略と実行が待ったなしの状況にある。半導体業界の現状、ニッポン半導体再起をかけた挑戦、将来に向けた成長のヒントなどをどうみるか。半導体業界の紆余曲折を長年にわたり調査・分析し、その業界の行方を指南しつづけているインフォーマインテリジェンス合同会社シニアコンサルティングディレクターの南川明氏にお聞きした。

―― TSMCは驚異的な伸長、高額報酬と聞きます。
 南川 TSMCの売り上げはファンドリーの売り上げであり、最終製品になれば本来2倍程度の金額に等しい。実態は世界トップ3圏内の一角にある。地政学リスクが高まるなか、日本の熊本に加え、欧米でも拠点の新設計画があるなどサプライチェーン寸断に向けた備えの中核にもある。ご指摘のとおり、報酬も高額であり、台湾現地では、修士課程新卒者の年俸は890万円程度、採用人数は約6000人規模に上る。日本もRapidus(株)(ラピダス)の設立など、ニッポン半導体再生をかけた挑戦が始まっており、待遇面でも成功報酬などの工夫によって最高レベルを目指す必要がある。

―― 23年の半導体市場の成長率、設備投資の見方は。
 南川 前半は厳しいとみて、23年の半導体市場は前年比マイナス3%台を見込んでいる。当社は若干強気な見方をしていることになる。一方で設備投資はマイナス20%程度を予想する。メモリーを中心とする投資減速を見込むからだ。ただ、まだまだ高いレベルであり、健全な状態が維持できているとみる。

―― 24年については。
 南川 半導体は前年比8%台のプラス成長、場合によっては2桁成長もあり得ると予想する。マクロ環境において24年になればインフレも落ち着き、ロシア・ウクライナの出口もしくは終息が見え、コロナも終息するなどマイナス要因が縮小することが大きい。

―― 具体的には。
 南川 ロシア・ウクライナ問題が終息すれば、今止まっている各国のエネルギー政策、カーボンニュートラル(CN)政策が動き出す。CN政策だけで5年間で500兆円規模のインパクトがあり、経済効果は絶大だ。当然、電子デバイス需要喚起も期待できる。また、データセンター(DC)用サーバーのアーキテクチャーが変わる。インテルの新しいマイクロプロセッサー、高速DRAMメモリーが搭載され、メモリーセントリックな形になるなど、24年になれば積極投資が復活する。さらにChatGPTが本格普及すればDCのパフォーマンスはさらに向上し、半導体にも好材料となる。

―― CHIPS法の影響について。
 南川 ここは結構、重要だと思っている。経済面でも軍事面でも米国が本気で中国の技術進歩を止める動きに出たとみる。米中はビジネス的なつながりも非常に強いが、それを徐々に減らしていくことを決めた。一方、中国側は半導体の自国生産率を高める戦略を諦めていない。ただし、中国製造2025で25年に半導体内製率7割の目標は一度リセットし、中国国内では30年に目標達成時期を先送りしていると推測している。

―― ラピダスの意義は。
 南川 大きく2つある。1つは日本で2nm以降の最先端の半導体開発拠点を設けることで、装置メーカーや材料メーカーの世界における存在感を堅持することに直結する。もう1つは日本にも最先端半導体の量産拠点を持つことで、世界的な地政学リスクによるサプライチェーン寸断リスクに対応できることだ。日米欧に分散して量産拠点を持つ意義が増している。また、最先端拠点の存在は日本の半導体弱体化からの脱却につながる。米国も全面支援の方向性にあるとみる。

―― EUV装置はASMLが独占の状態にあります。液浸技術は存続できるのでしょうか。
 南川 生き残れる。例えば2nmのAIチップのマスク枚数は100枚近い。EUVを使用するのは20枚弱程度。残る80枚は液浸や古い露光技術を使用する。アナログや他の半導体デバイスもあり、確実に必要な技術で
ある。

―― メタバース全体の評価、インパクトは。
 南川 足元は少しトーンダウンしている。ただし、米国ではGAFAMが25年をメタバース元年と見据え、新プラットフォームの創出や様々なサービス展開に向けて動き出している。メガネ形状のスマートグラスになればバッテリーも多くは載せられないため、スマートフォンやスマートウオッチに電波を飛ばしてやりとりするような新たな仕組みも創成されるだろう。

―― 最後に日本が強い装置や材料についてのご見解を。
 南川 中国には米国で学んだ優秀なエンジニアが日本の10倍、20倍存在する。装置、材料でも日本を追い上げようとしており侮れない。現状で日本はまだ有利なポジションにいる。この距離を縮めないために、同じスピードで次々に次世代開発を進めなければならない。中国のスピード感に追い付くような枠組みが必要ななか、ラピダスがIBMやimecとタッグを組む今回の流れはプラスになるはずだ。こうしたスピード感を途絶えさせず、継続して実行しつづける必要がある。

(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/高澤里美記者)
本紙2023年4月6日号3面 掲載

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