商業施設新聞
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No.901

「タイパ」や「コスパ」では得られない価値


北田啓貴

2023/4/4

 「タイパ」(タイムパフォーマンス)や「コスパ」(コストパフォーマンス)という言葉が世間で一気に浸透した。書店に行けば、「○○分で教養が身につく」というようなタイトルの本が並び、映画やドラマ、アニメを倍速で観るということが一定の共感を得られるようになってきた。こうした考えが世間に浸透する背景は、常に個人の利益の最大化が求められているからだと考える。

 そもそも、仕事をする上では、タイパやコスパは必須だ。生産性を向上させ、自分の成績、会社の業績伸長に貢献する。その対価として給料をもらう。仕事においては筆者自身もタイパやコスパという概念は理解できる。ただこれらの概念が映画やドラマ、アニメを倍速で観るというプライベート(仕事でしている人もいるが)にまで浸食することには違和感を覚える。もちろん昔から効率的に行動することをモットーとする人は一定数いるし、好んでしていることであれば問題はない。ただ、筆者としては、出演している役者の演技、セリフの意味など倍速で観ると気づけない要素が詰め込まれていると思うからだ。そのため、映画やドラマ、アニメは少なくとも一度、倍速ではない、“通常速度”で観るようにしている。

八坂の塔が眺められるカフェ
八坂の塔が眺められるカフェ
 先日「タイパ」や「コスパ」について考えさせられる取材があった。それは、3月21日に京都市内でオープンした「L’instant joli Causette.Joli KYOTO」の内覧会だ。ここはマニキュアブランド「Causette.Joli」の商品を販売する直営店で、2階にはカフェを併設し、茶花を用いた茶を提供している。

 カフェを併設した狙いについて、担当者に聞くと「(指に塗った)マニキュアが乾く時間も楽しんでほしかったから」だと語る。また、1階では、商品を購入しなくても商品を試し塗りすることができ、担当者は「買ってもらいたい以上に(マニキュアを塗って観光地を)楽しんでもらいたい」と話す。

 筆者の頭では、つい来店動機を増やすためとか、店舗の滞在時間を伸ばすことで買い上げ点数を増やしたいとかでカフェを併設したなどと推察してしまうが、そういったことではなかった(結果的にはこれらの効果も期待しているかもしれないが)。まさに、マニキュアを塗って乾かす時間自体を楽しんだり、それを縫って観光地を散策する。タイパやコスパに勤しんで得られない価値というのはこういうものなのかもしれない。
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