国内エレクトロニクス商社トップグループの加賀電子(株)(東京都千代田区)は、EMS(電子機器の受託製造サービス)事業の拡大を積極的に推し進めている。いまや売上高は全社の4分の1を占め、2022年度(23年3月期)に過去最高の1400億円を目指す。車載を中心に、空調機器や産業機器など多品種少量生産に特化した独自のビジネスモデルを貫く。EMS事業を統括する取締役の俊成伴伯氏に足元の市況ならびに中長期展望を聞いた。
―― 半導体市況が調整局面です。EMSの景況感は。
俊成 確かに一部半導体市場は在庫調整に入っているが、当社が手がけるEMS製品はおおむね好調に推移している。特に車載や医療機器向けに販売が大幅に伸長している。現在、3年ほど前に仕込んだ商談・受注が売上増に貢献している。
―― 22年度の売上高見通しは。
俊成 前年度比19%増の1400億円に上方修正した。巣ごもり需要の反動で民生機器向けを中心に弱含むアプリケーションもあるが、EV・HV化需要に支えられている車載関連、産業機器、医療機器向けなどの受注が継続している。現在、欧州などでは省エネ効果の高いヒートポンプ式空調機器の需要が急増している。DXやGX化の恩恵で、エレクトロニクス製品の数量増の底上げが進んでいる印象だ。
―― 最終用途別の売上構成比は。
俊成 車載4割、空調2割、産業機器2割、医療1割弱となり、残りは民生機器、事務機、通信などだ。車載は後発だったが、5年ほど前から急激に売り上げが立つようになり、現在はEMSの屋台骨の1つとなっている。
―― 独自のEMSモデルを構築しています。
俊成 当社は半導体などの電子部品を扱う商社としてスタートしている。19年1月から半導体設計が可能な加賀FEI(旧富士通エレクトロニクス)を社内に取り込んだことで、単なるEMS事業のみではなく、デバイス設計から部品調達、EMS、完成品組立、メンテナンスまでのフルターンキーを提供できる。
設備投資を抑制するため、土地・建物は基本的にレンタルとし、内装・設備の標準化を進めるなど工夫を凝らしている。当社では多品種少量を軸に地産地消による顧客密着型のサービスを得意とし、これを「コンビニ型EMS」と呼んでいる。
―― SMT工程の設備機器も内製化されていると聞きました。
俊成 はんだ槽や表面実装機、各種検査機などの装置の内製化を進めている。18年秋に中国でこれらの装置の設計や製造を担う現地法人「蘇州加賀智能設備有限公司」など2社を設立している。単に開発した装置を自社の工場に導入するだけでなく、外販も行っている。これにより、装置の信頼性向上を図り、メンテナンス事業まで広げている。
―― 「生産センター」の役割を教えて下さい。
俊成 国内でものづくりの力を維持・向上させるために、十和田工場(青森県、加賀EMS十和田(株))をマザー工場と位置づけ、グローバルの生産拠点と緊密に連携していく必要がある。生産センターは世界のEMS各拠点の情報を横串で管理、ものづくりの生産や品質の標準化を推進していくための組織となる。BCP連携の向上や人材の育成にも積極的に関わっている。
―― EMSの生産体制は。
俊成 現在10カ国21拠点を運営している。うち国内の主力拠点は加賀EMS十和田と旭東電気(鳥取県)だ。22年11月にはマレーシアに、旧工場を移転して新工場を立ち上げた。23年6月にはトルコでも旧工場を移転して新工場を立ち上げる。現地の需要に迅速に対応できるよう投資を継続していく。当社はインド北部でも事業を開始しているが、現地でのニーズが急激に高まってきており、南部にも新拠点設立の構想を持っている。
―― 次期中計における事業規模のイメージは。
俊成 現行中計の終了年度の24年度にEMSで1500億円を売り上げる計画だが、おそらく1年前倒しで達成できるだろう。次の3年間を見据えた場合、今後精査は必要だが2000億円が1つの可能性として浮上してくるだろう。そのなかで、車載をはじめ空調、産業機器、医療機器など主力ポートフォリオを上手くバランスをとりながら、事業展開したい。また、SMTラインの生産能力も増強する必要があり、現行よりも5割程度引き上げる必要がありそうだ。
(聞き手・特別編集委員 野村和広)
本紙2023年3月23日号5面 掲載