昨夏、関東・関西の鉄道会社を対象に連載企画「えき×まち」を実施した。ある取材で「駅づくりは街づくりである」と某デベロッパーが呟いた一言をきっかけに始めた企画であったが、鉄道各社は取材に快く応じていただき、様々な話を聞くことができた。その中で一番印象に残ったのが、「関西の鉄道会社は関東と違い、早くから人口減少への危機感を抱いていたので、新型コロナウイルスの流行前から街づくりの取り組みは進めていた」(某鉄道会社の街づくり担当者)というコメントである。
確かに、関西の鉄道会社は街づくりへの取り組みを積極的に進めている。えき×まち連載で取材した南海電気鉄道は、難波エリアにおいて、エンターテインメントとステイの力で高める街づくりに取り組んでいる。難波エリアではすでに複合施設「なんばパークス」やショッピングセンター「なんばCITY」などを展開しているが、直近の1月には難波中二丁目開発計画のうち、B敷地とC敷地が竣工。B敷地は日本金銭機械やディップが入居するオフィスビル「パークスサウススクエア」として稼働した。C敷地は3月に「ホテル京阪 なんば グランデ」が開業する予定で、残るA敷地も7月に「センタラグランドホテル大阪」がオープンする。こうしてオフィスやホテルを新設することで、平日の昼間人口や夜間人口を増やしていく考えだ。
ただ、街づくりを積極的に進める理由が人口減少にあるかと言うと、必ずしも当てはまらない。危機感を抱いているのは事実であるが、人口減少は将来、関西だけでなく、関東でも、日本中で起きる問題だ。関西の鉄道会社だけが割を食っているわけではない。だからこそ、ここには別の要素が考えられる。その要素は西日本旅客鉄道、阪急阪神ホールディングス、南海電気鉄道など、関西の鉄道各社が計画する新駅構想だ。
関東でも今春に開業するJR京葉線の「幕張豊砂駅」のほか、東京~有明間を結ぶ新地下鉄構想などが進んでいるが、関西では、大都市・大阪で新たな鉄道網の整備や新駅の設置計画が進行中だ。最も注目されるのが「なにわ筋線」。なにわ筋線はうめきた2期地区近くに開業する新・大阪駅と、JR難波駅および南海本線の新今宮駅をつなぐ新たな鉄道路線で、中間駅として、中之島駅、西本町駅、南海新難波駅が新設される。
すでに新・大阪駅は3月18日の開業が決まっており、JR西日本は同駅周辺で「梅田3丁目計画」「大阪駅新駅ビル」「大阪駅新商業施設」「大阪駅高架下開発」の計4プロジェクトを開発中だ。とりわけ、梅田3丁目計画では商業施設やオフィスのほか、ホテルも導入する予定で、ホテルはJR西日本グループのジェイアール西日本ホテル開発がマリオット・インターナショナルと提携した新ブランドを出店する。南海電気鉄道も南海新難波駅の周辺で、なんば広場を整備した後、その跡地を利用して多彩な人材が働き活躍するビジネス機能と、インバウンドの滞在・居住機能を強化した新拠点を設ける。なにわ筋線のほかにも、北大阪急行電鉄が箕面市までの延伸を、大阪市高速電気軌道は中央線の森ノ宮駅の北約1kmに新駅を設置する予定があり、新路線の整備や新駅の設置で人の流れも変わる見通しだ。近い将来、関西鉄道網はどのような将来像を示すのか、その行方に注目したい。