電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第512回

TDK(株) 代表取締役社長執行役員 齋藤昇氏


三本柱でバランス良い事業体制へ
「自力」磨き新たな成長へ布石

2023/2/10

TDK(株) 代表取締役社長執行役員 齋藤昇氏
 フェライトから始まったTDK(株)(東京都中央区)は、エナジー応用製品、受動部品、磁気応用製品、センサ応用製品と枝葉を広げ、「フェライト・ツリー」として拡大し、いまや売上高2兆円規模(23年3月期売上高予想2.17兆円)を誇る電子部品の世界リーディングカンパニーへと飛躍を遂げている。創業八十余年を誇る同社の社長として2022年4月からTDKを率いるのは、齋藤昇氏である。同氏はTDKの電子部品営業畑を一筋に歩み、13年には常務執行役員、14年には電子部品営業本部長兼務、17年からはセンサシステムビジネスカンパニーCEOに就任。センサ応用製品事業を黒字化へと導いた立役者でもある。そんな齋藤社長に市況感、中長期展望など幅広くお聞きした。

―― 新社長就任からこれまでを振り返って。
 齋藤 早9カ月という感覚だ。現職就任前の22年3月までは米国サンノゼにいて、センサ応用製品事業の黒字化達成へ奔走していた。結果、22年3月期には黒字化を達成し、現職に至った。センサ応用を率いていた当時は、可能な限り広い視野をもって前を向いてきたつもりだが、4月から社長という立場になり、さらに全方位での視野を広げるよう意識している。しかし直近は、それでも足りないという意識をもっており、例えて言うならばグロスで540度を意識することで何とか全方位をカバーしている感覚である。

―― 市況感について。
 齋藤 マクロ経済状況は22年下期あたりから停滞し始め、23年1月時点で全体のGDPも下方修正されており、楽観視できない状況にある。データセンター(DC)、スマートフォン(スマホ)などICT関係も大きな調整局面にあり、少なくとも23年前半まではこの調整局面が続くと見ている。場合によっては、さらに回復時期が後ろ倒しになる可能性を注視している。自動車の販売台数も22年は前年比横ばいだったが底は打ち、23年は微増に転じるとみる。一方、xEV(電動車)は22年に5割伸長し、23年も2~3割伸びると予想する。

―― 22年にCATLとのJV(ジョイントベンチャー)設立を公表されました。貴社におけるエナジー応用の比重に変化は。
 齋藤 バッテリーが大黒柱であることは変わらない。すでにスマホなどモバイル機器向け小型LiB(リチウムイオン電池)で世界トップシェアであり、中型LiBでも世界ナンバー1を狙っていく所存だ。この実現に向けて、投資と収益のバランスを考え、EV向け大型LiBの世界最大手であるCATLとJVを設立する手段を選んだと理解いただきたい。中型LiBで30年度売上高約5000億円を目指していく。一方で、受動部品、センサーを新たな柱として育てていく。投資の比重も適宜修正中だ。

―― 21~23年度の設備投資額は7500億円の計画です。
 齋藤 為替レート1ドル110円想定での投資計画ではあるが、大枠に変更はない。21年度、22年度は各2000億~3000億円程度を投資した。ただし、需要の流れをみて中身を見直し、当初LiB向け6割、受動部品2割の予定だったが、xEV向けに受動部品、センサー需要が好調なため、LiB向け比率を4割とし、残りは受動部品を中心に、センサーに振り向けている。

―― 確かに受動部品へ積極投資されています。
 齋藤 周知のとおり、約500億円を投じ、MLCCの増強に向けて北上工場に新棟建設を計画し、23年3月から着工、24年6月竣工、24年9月量産開始を予定している。同時に、同じく秋田で約90億円を投じ、めっきプロセス応用製品の開発・製造を目的に稲倉工場西サイト建設に向けて22年春から着工し、23年4月竣工、9月稼働を目指して進行中だ。これ以外にも、高電圧なフィルムコンデンサー、インダクティブデバイスなども世界複数拠点で増産投資を進めている。いずれもxEVや多機能化するADAS需要、再生可能エネルギー需要などへの布石である。

―― 黒字化を達成したセンサ応用製品については。
 齋藤 元々描いていた絵から2~3年遅れの黒字化達成だったことは反省事項であるが、何とか前期に赤字から脱却できた。やっとエピソード1が終わったという認識であり、ここからエピソード2が始まる。エピソード2の根幹は、安定した黒字化の継続にある。この施策としては、従来のインベンセンス買収のような大型M&Aは考えておらず、ここ1~2年で地道に取り組んだ顧客基盤の拡大、アプリケーション基盤の拡大、新製品投入を基本戦略として実践していく。
 センサ製品もxEV向けにTMRセンサー、温度センサー、圧力センサー、MEMSセンサーなど幅広いポートフォリオが伸長しており、今後も注力していく。また、先ごろ買収したエッジデバイス向けエンドツーエンド機械学習の自動化(ML)を手がける米キークソ社とも、将来的にはセンサ応用製品とシナジー効果が期待できる可能性がある。

―― 磁気応用製品の見通しは。
 齋藤 22年度上期は唯一、大幅な減収減益で損失計上となった。要因は、景気減速影響によるDC投資減少とHDDの在庫調整が進んだことにある。そのため、直近ではニアライン用HDDヘッド、HDDサスペンションの販売数量が期初予想から減少している。しかし、23年前半が底となり、早ければ後半以降に回復してくると見込んでいる。DCでは10テラバイト級のストレージデバイスを要するため、中長期的にはHDD需要は底堅い。そのため、次世代HDDヘッドのMAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)の量産立ち上げや、HAMR(熱アシスト磁気記録)の開発も各種施策と並行して進めていく。

―― 今後の展望を。
 齋藤 前述のとおり、エナジー応用製品に加え、受動部品、センサ応用製品を新たな柱に育て、三本柱でバランスのとれた事業ポートフォリオを目指していく。
 中長期的な成長軸となるDX、EXの潮流に乗り、この三本柱+磁気応用製品で、新たな成長ステージに持っていきたい。そのためにも、23年は全体的に厳しい一年になるとみているが、逆に社員の成長、モチベーション、エンゲージメントを後押しして「自力」を磨いていく。足元の逆境を前向きに利用して各自が「自力」を高めていけば、底上げされた組織力で将来に挑むことができる。TDK社員一丸で、新たな成長ステージに向かっていく。

(聞き手・編集長 稲葉雅巳/高澤里美記者)
本紙2023年2月9日号1面 掲載

サイト内検索