旧アルプス電気と旧アルパインの経営統合から2023年で5年目を迎えるアルプスアルパイン(株)(東京都大田区)は、縦方向に要素技術の深耕、横方向にシステム技術の広範囲化を意味する「T型」企業として、価値創造の追究に挑み続け、着実にその成果が表れている。22年度上期(4~9月)売上高は過去最高を更新。22年度通期業績も期初予想から上ぶれの売上高9050億円、営業利益500億円を見据える。代表取締役社長の栗山年弘氏に、23年の展望、業界へのメッセージなど幅広くお聞きした。
―― 22年を振り返って。
栗山 当社はグローバルに事業を展開しており、全社売上高の8割強を海外が占める。そのため、為替の側面では22年は円安効果が寄与したが、ドルベースではもう少し冷静に見る必要がある。巣ごもり需要の一巡もあり、例えば汎用コンポーネントスイッチでは円安効果を除くドル建ての実質ベースでは2割程度の減収と見ている。利益面でも世界的なインフレ影響からエネルギー価格、資材費、労務費などすべてが6%程度上昇した。かつ4~5月は上海ロックダウンで当社の中国2工場も操業面で影響を受けるなど、厳しい1年だったといえる。
―― 車載向けは。
栗山 22年度期初予想では22年世界自動車生産台数8500万台程度を予想していたが、半導体不足の影響などから最終的には21年と同等の8100万台程度で着地すると見ている。ただし、世界的に需要は引き続き強く、コロナ前の同9000万台水準に向けて23年以降は着実に伸長するだろう。一方、全社売上高の3分の2を占める車載向けでは、22年度から経営統合効果が着実に表れており、ドル建てで見ても若干プラスで着地できそうだ。
―― ところで開示セグメントを変更されました。
栗山 22年度から製品別に開示セグメントを全面刷新した。スイッチ、アクチュエーターなどのコンポーネント事業、センサー・コミュニケーション事業、車載系が中心のモジュール・システム事業の3セグメントとしている。事実、電動車は統合ECU化に伴い、車載インフォテインメント系もコックピットキャビンドメーンコントロール化の流れにある。こうなれば、ディスプレーもハードもソフトウエアも境目がなくなってくる。特にソフトウエアの比重はますます高まるだろう。
―― 協業などすでに布石を打たれています。
栗山 周知のとおり、21年初頭からHUD(ヘッドアップディスプレー)やメーターで実績のある日本精機と資本業務提携し、当社のIVI(In-Vehicle Infotainment)システム製品、HMI(ヒューマンマシンインターフェス)、各種センサー、通信デバイスを活かした統合コックピットの開発を共同で推進している。液晶ディスプレーにメーターもナビゲーションも表示される時代にあって、他社との協業は必然だ。また、22年には自動車用シート大手のテイ・エステックとも次世代車室内空間「XR Cabin」の開発に向けて業務提携契約を締結し、開発は順調に進行している。
―― ソフトウエア強化への対策は。
栗山 ソフトウエア人材の獲得が急務だ。当社では国内外のソフトウエア会社とアライアンス契約を締結しているほか、国内では仙台駅直結で「仙台ソフトウェア開発センター」を開設、23年4月には古川開発センター内に「R&D新棟」(宮城県大崎市)を竣工する。このR&D新棟は新幹線の駅から5分のロケーションのため、23年4月から仙台駅~古川駅間の新幹線通勤を許可し、移動の利便性を高めてリクルーティング活動を強化する。また、リモートワークを活用し、首都圏を筆頭に全国のソフトウエア開発者も積極採用していく。海外では、中国のパートナー企業との協業に加え、23年にはインドでも同様のパートナー契約を検討していく。
―― 設備投資について。
栗山 22年度428億円の投資は予定どおり進行している。また、今後も毎年400億~500億円を投じていく予定だ。3年ほど前に新棟を建設した古川第2工場は、すべてのセグメントにおいてマザー工場の位置づけにある。そのため、順次ラインを増強しながらここ2年程度で埋めていく。コンポーネント製品の生産は日本、中国など東南アジア地域で需要に応じて増強していく。一方、車載ティア1向けを中心とするモジュール・システムは欧州、北米、中国の主要地域で地産地消体制をより強化していく。
―― 23年の市況感を。
栗山 現状の手応えでは、コンシューマー、デジタル家電向けは少なくとも23年前半は落ち込むと見る。また、半導体不足、ロックダウン懸念が解消して適正在庫、かつ需給バランスが正常化するには23年いっぱいはかかると予想する。一方で、23年の世界自動車生産台数は8400万台へ回復し、新車販売台数も前年比6~7%増を見込んでいる。
―― ところで、22年度売上高予想は24年度の目標値を上回る勢いです。
栗山 為替で2割程度下駄を履いており、ドル建てで見る必要がある。また、22年度第1四半期(4~6月)まで連結対象だったアルプス物流分が23年度からは連結対象外となる。そのため、24年度売上高8800億円、営業利益率8%、ROE10%を目標に掲げるitc88、連結営業利益率10%、売上高1兆円の中長期目標(ITC101)達成を今後も見据えていく。
―― 期待する市場は。
栗山 コンポーネントではスマートフォン、車載向けが多いが、今後はゲームを含めたアミューズメント市場に期待している。当社はジョイスティックで業界トップシェアであり、今後、ゲーム機への用途拡大や、将来的にはメタバースのコントローラー内、ゴーグル内などへも裾野拡大が期待できる。ゲーム機は1億台市場であり、各種センサー製品を含めて有望市場の1つと見通している。
センサー・コミュニケーションでは、車室内の乗員検知やキックセンサー向け60GHzミリ波センサー、EV用インバーター向け電流センサーなど、安全・環境関連製品が5年後には金額ベースで2倍程度まで増えると見込んでいる。25年以降のEV急拡大は追い風になるだろう。モジュール・システムもデジタルキャビンを含め、着実に増えていくと見る。
―― 3セグメントすべてで伸長が期待できます。
栗山 ただし、コンポーネントはソフトウエアが絡まないが、センサー・コミュニケーション、モジュール・システムはまさにハードとソフトの融合領域であり、旧アルプス電気、旧アルパインのシナジー領域だ。ITC101で掲げる利益率10%達成に向け、利益重視で挑んでいく。
―― 最後に業界へのメッセージを。
栗山 日本政府が経済安全保障を重視し、半導体強化に舵を切るなか、実は電子部品も世界シェア40%弱を握り、国別で世界トップシェアを堅持している。半導体同様に、電子部品も1つ欠ければ最終製品は生産できない重要部品である。しかも、かつては日本が強かったデジタル家電を含め、現状はセット機器メーカーの多くが海外である。そのため、日本の電子部品がグローバル産業を下支えしていると言っても過言ではない。さらに、高度な技術力を要するハイエンド領域では日本が断トツの強さを誇る。半導体と電子部品は一心同体の関係にある。今後も業界一丸となって技術を磨き続け、世界に存在感を堅持し続けていく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年1月26日号1面 掲載