電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第487回

ジャパンディスプレイのVR戦略


超高精細化を促進、HMDの軽量薄型化にも着手

2023/1/20

25年度に2000ppiディスプレー展開へ

 2022年12月に開催された展示会「第32回 ファインテックジャパン」でジャパンディスプレイ(JDI)が講演した「VR用高精細デイスプレイ」の内容から、同社のVR(仮想現実)向け高精細ディスプレーの戦略や計画について紹介する。また、同社が過去に発表した技術についても補足し追記する。

 同社では、(1)eLEAP(次世代OLED)、(2)HMO(High Mobility Oxide)、(3)メタバース(超高精細ディスプレー)、(4)AutoTech、(5)レルクリア(透明インターフェース)、(6)新技術・新商品・新事業の6つの領域を成長ドライバーとして掲げている。

 その中で、同社がヘッドマウントディスプレー(HMD)向けに展開する超高精細な液晶ディスプレー(LCD)パネルは、他社よりも市場先行したことも奏功して、~799ppi、800~1099ppi、1100ppi~のパネル合計で、市場シェア4割を獲得し(21年10~12月期、Omdia調査より)、トップシェアを堅持している。

 現在は1201ppiのLCDを出荷中で、25年には2000ppi、28年には2500ppiを目指し開発を進めている。25年度に上市予定の2000ppi製品では、パネルサイズ2.X型、4K、コントラスト10万:1以上、応答速度2ms以下、リフレッシュレート120Hz以上のスペック達成を目指す。

 プロトタイプとして、2.27型/2016ppi・3240×3240(解像度)/90Hz(リフレッシュレート)、グローバルブリンキング(バックライトの方式)方式のパネルを展開している。グローバルブリンキングとは、正確なタイミングでバックライトを点滅させることで、画像のぼやけを抑制し、鮮明な画像イメージを映し出すことができる技術だ。

 同社のVR向けLCDは、このグローバルブリンキング技術に、従来(IPS液晶)比5倍の応答速度を持つ液晶材料を用いることで、画像の歪みやぼやけ、ゴースト現象を抑えた「インパルスディスプレイ」を実現している。なお、すでに市場展開されている1201ppi/2.88型/2448×2448/120Hz/グローバルブリンキングタイプでは、同社独自のバックプレーンであるAdvanced LTPSを採用し、従来LTPS(低温ポリシリコン)からの高開口率化(開口率を30%向上)を図っている。

 VR向けディスプレーでは、自発光なことから液晶ディスプレー(LCD)よりも応答速度が速く、残像が出にくい有機ELディスプレー(OLED)が先行して主流となっていたが、高精細化が進むにつれてOLEDでは難しくなり、LCDが台頭してメーンとなっている。今後もVR向けLCDは超高精細化と高リフレッシュレートの追求がマストとなっていくだろう。

2500ppiの先には有機ELの展開も

 同社では、将来のVRディスプレー(1700~2500ppi)には、(1)解像度(片目4K)、(2)最適な画面サイズ(2.X型)、(3)HDR適合性(コントラスト10万以上)、(4)輝度(1000cd/m²)、(5)表示時間、(6)リフレッシュレート(120Hz以上)といった要件がそろうことが必須になると想定している。さらに、VR-HMDで没入感を出すためには、広い視野角(FOV)が重要であり、これには2型以上のパネルが必要となるとされている。FOVを保ったままパネルサイズを小さくすると、EyeBox(表示が見える目の位置の範囲)も小さくなることから使い勝手が悪化してしまうため、同サイズのパネルを妥当なコストで作るには、LCDが最適だとしている。
 
フォトリソで画素形成ができる「eLEAP」技術は高精細化も可能
フォトリソで画素形成ができる「eLEAP」技術は
高精細化も可能
 そして、28年度までに2500ppiをLCDで達成した以降は、新しいバックプレーン技術のHMOや次世代有機EL技術のeLEAPの採用が視野に入ってくる。リフレッシュレートは、UHMO(UltraHMO)+駆動最適化技術を最適に用いることで140Hzが可能となる。eLEAPは容易に有機ELの高精細化を可能とする技術であり、開口率60%を実現していることから、高輝度化も可能だ。超高精細LCDに匹敵する性能を実現するほか、曲面などフリーシェイプな形状のパネルが提供できるようになるという。

VR-HMDの軽量・薄型化にも貢献へ

 同社では、VR-HMDで使われるレンズ性能を上げる部材の開発も進めている。HMDの従来のレンズ構成は、眼とディスプレーの間に凸面レンズを搭載する単レンズ型(厚肉で非球面タイプ)で、フレア/ゴーストの無いクリアな表示ができる一方で、倍率設計の限界や設計自由度が低いという課題がある。また、同じくフレネルレンズを用いた単レンズ型では、薄いことから設計自由度が高く、軽量・薄型という利点があるものの、フレアが発生しやすく独自の設計を要する点が課題となっている。

 これには、複数枚のレンズを搭載した新しい構成のものや、「パンケーキ型」と呼ばれるレンズを採用したタイプが提案されており、今後は現状主流のフレネルレンズからパンケーキレンズ型に移行していくと見られている。パンケーキレンズの最大の優位点は、レンズ内で光(映像)を折り返して投影することから、眼とディスプレーの距離を短くすることができ、全体を薄くすることができることだ。

 同社では、このパンケーキレンズ型の性能を向上させる、「レーザーバックライトLCD」などを用いたHMDのプロトタイプを開発している。

VR-HMDに貢献する偏光レーザーBLUとHOE

 偏光レーザーバックライト(BLU)技術とホログラフィック光学部材(HOE)を用いて、パンケーキレンズとレーザーBLUの組み合わせが抱える、光利用効率が低いという課題にアプローチしている。

 パンケーキレンズを用いた光学系(パンケーキ光学系)は、4分のλ波長板2枚と凹面ハーフミラー、(凹面状の)反射偏光板などの部材で偏光状態をコントロールし、約3倍の光路長を得られる光学系だ。従来のレンズ部分に相当し、これよりもLCDから瞳に入る光(映像)の距離を短縮できるという利点がある。

 同社では、パンケーキ光学系で使用される凹面ハーフミラーをHOEに変えることでフラットにし、同時に反射偏光板をフラットにすることで、光学系全体を薄くした。これは、従来の光学レンズタイプの光学系が約41mmであるのに対し、約16mmにまで薄型化が実現されている。

 HOEは波長の選択性が高いという特徴と持つ部材で、発光波長幅の狭いレーザーがBLUとして最適であるが、パンケーキ光学系の光取り出し効率と、レーザーBLUの発光効率を考えると、偏光板の透過軸に一致する光を出す偏光レーザーBLUが最適となる。同社では、これを開発して高い光利用効率を実現した。この偏光レーザーBLUは、ゼロゼロ複屈折ポリマーという、光の偏光方向を変化させない特殊材料を用いた導光板を採用したことで、理論上100%の光をLCDに透過させることができている。

 HOEは凹面鏡と同じ作用をするもので、体積型ホログラムを材料メーカーから調達している。デモ機ではガラス基板に塗布したものを採用したが、フィルムにすることが可能なため、厚みは数十~100μm程度まで薄くでき、光学系を現状の16mmより薄くすることも容易だという。ディスプレーを含む光学系の薄型化・軽量化ができれば、HMDの筐体のプラスチックも薄型・軽量化ができるはずで、製品全体の改良に貢献できると考えている。

 このHMDの薄型・軽量に貢献する、偏光レーザーBLU技術とHOEを用いた光学系の製品化は26年度を目指している。VRの世界で実物と見分けのつかない画質の提供と小型化に寄与し、現状のような大きくて重たいHMDでただ見るのではなく、サングラスのような軽さ薄さで視聴できるレベルを目指していく。

電子デバイス産業新聞 編集部 澤登美英子

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