2023年世界半導体市場は前年比4%前後のマイナス成長が予測されるなか、世界電子部品市場は同5%増の2521億ドルが見通されている(電子情報技術産業協会公表値)。日本勢が世界シェアの約34%を堅持する電子部品市場で、23年も各社の活躍に期待がかかる。さて、その電子部品業界で京都の地から世界に存在感を放っているのが、創業当初わずか4人からスタートし、今では売上高2兆円を誇る世界トップクラスの総合モーターメーカー、日本電産(株)(京都市南区)だ。23年で創立50周年を迎え、社名も4月から「ニデック」に改名する。次なる飛躍に向けた布石・展望をどう描くのか。創業者の永守重信会長と二人三脚で世界トップ企業へと導いてきた代表取締役社長の小部博志氏に幅広くお聞きした。
―― 30年売上高10兆円達成に向けたストーリーを。
小部 10兆円ありきではなく、まずは25年度売上高4兆円という目標達成が先にある。SPMS(HDD用モーター/小型モーターなど)、AMEC(車載用製品)、ACIM(家電・商業・産業用製品)、その他工作機械など、全セグメントで布石を打っていく。
―― 具体的には。
小部 SPMSでは、従来当社筆頭の成長ドライバーだったHDDはピークを過ぎ、代わりに台頭したIT通信の世界、サーバーやデータセンターではCPU、GPUの高性能化やデータ容量拡大に伴い、発熱対策が大きな課題となっている。従来のファンでは追い付かない。そこで水冷モジュールの製品展開を始めた。有名なスパコンの開発担当者が当社へ移籍し、積極展開を図っている。また、18年に買収した台湾CCI社のサーマルソリューション製品と当社の冷却技術を組み合わせた付加価値製品創出にも期待している。
―― SPMSでは電動バイク用も注力されている。
小部 中国では電動バイク一番手であるヤディア社に、すでに電動バイク用駆動モーターを提供中だ。インドでは当社が先頭を走り、数社から受注を獲得している。22年8月の第2工場の起工式を機に、さらに引き合いが増加している。
―― 小型モーター用途も拡大基調です。
小部 メタバース向けでは、ゴーグル向けのファン、レンズ関係などの新需要が生まれている。ゲーム機向けではリニアモーターで感覚を再現できる振動モーターなども好調だ。当社の軽薄短小技術を象徴する超小型振動モーター搭載スタイラスペンも、書き心地がよいと定評がある。
―― AMECはE―Axleが大きな布石ですね。
小部 車載事業部は投資が先行して収益改善が課題だったが、22年7~9月期に黒字に転じた。第1世代品比30~35%のコスト改善に成功した第2世代品として22年9月に100kW品の量産を開始し、4月には150kW品の量産も始める。23年度には通年黒字化を達成していく。その後も25年度には競争力を高めた第3世代品を、29年度にはマグネットフリーの第4世代品を上市していく予定だ。ただし、車載向けE―Axleは中国では三位一体品ニーズが高い一方、欧州ではモーター、インバーターを別々提供など、地域によってニーズが異なる。こうした地域別の対応も要する。また、曲がる、止まるを司るハンドル、ブレーキをはじめ、天井のサンルーフ、シートアジャスト、エアコンなどあらゆる個所に当社モーターを提供している。それらも含めて、25年度にはAMECで売上高1.3兆円を達成していく。
―― ACIMではBESS(バッテリーエナジーストレージシステム)強化の印象です。
小部 再生可能エネルギーの使用にはBESSが一体だ。しかし当社にはバッテリーの要となるセルが不足していた。そのため、22年12月にノルウェーのフレイヤーバッテリー社と合弁契約を締結し、合弁会社「ニデックエナジー」を設立した。30年までに総額1.27億ドル超を投じ、25年から量産開始、27年から年間8GWh超のバッテリーモジュール/パックの生産、30年には同12GWhまで量産拡大させていく。また、300人以上の雇用創出も見込んでいる。
―― 工作機械もあります。
小部 21年8月に三菱重工工作機械(現日本電産マシンツール)を、22年2月にOKK(現ニデックオーケーケー)を買収し、工作機械に本格参入した。さらに22年11月後半には大型機で欧州を筆頭に中国、米国、インドに強力な販売・サービス網を持つ伊PAMA社買収を発表し、海外へ本格展開できる土壌が整った。シナジーを創出し、30年売上高1兆円を目指す。
―― 投資が必須ですね。
小部 大局着眼・小局着手だ。車載向けE―Axleでは公表済みの中国7拠点、欧州ではステランティスとの合弁工場(フランス)を主軸に、米国向けでは既存のメキシコ工場内に新棟を増築予定だ。23年度に車載事業が黒字化し、累損解消が一段落する24~25年あたりから約1000億円を投じて増築に着手、1年以内に量産にこぎ着けたい。メキシコ増築分だけでE―Axle生産能力は年間200万台程度増強され、全工場合わせた25年度の同生産能力は年間700万台程度に引き上がる。E―Axleの分水嶺とみる25年度に約2倍の生産能力で待ち受け戦略を実践していく。
―― インドについては。
小部 インドだけで総額500億円程度の投資を断行することになるだろう。インド第2工場は22年8月に起工式を行い、23年7月からの稼働開始を目指している。その後間髪入れずに23年夏から第3工場建設にも着手していく。投資額は両工場ともに各100億円程度を予定している。電動バイクはEVよりも1台あたりの単価も安く、駆動モーターも小型だ。その分、投資金額も抑えられる。
―― ニデックパークも建設中です。
小部 ニデックパークは、グループ連携を一層高めるための新拠点(敷地面積約6万m²、延べ床面積約15.47万m²)であり、総額約2000億円を投じ、着々と工事を進めている。当社グループ会社の本社、技術開発センターなどを集約する予定であり、22年7月に竣工したC棟では引っ越し作業も始まり、小型モータ事業本部、日本電産シンポ、日本電産リードがすでに本格稼働している。
―― 半導体に対するお考えを。
小部 基本的に半導体は調達であり、内作はしない。しかし、22年度には半導体調達難に直面し、当社製品の供給遅延が起こった。そこで当社内の調達ルートを一元化して、サプライヤーやパートナーとの強固な集中購買体制を確立すべく、22年6月に半導体ソリューションセンターを立ち上げた。当社独自作成のIP仕様書、RFI(Request for Information)を半導体サプライヤーへ示し、そのIPが入った半導体を開発・製造可能なパートナーへRFQ(Request for Quotation)を発行して、最終的に精査・選定のあと、LTA(Long Term Agreement)に至る。これが一連の流れだ。現在、25年度から量産予定のE―Axle第3世代品に向けた半導体調達案件が動いている。そのため、EVの主戦場である中国で半導体サプライヤー向け説明会を開くなどして、鋭意進めている。
―― 最後に、新社長としてのメッセージを。
小部 お客様目線という原点。「現場、現物、現実」をベースにしながら、変化に追随していく必要がある。そして今まで正しいと思うことが本当に正しいのか。「180度真逆の発想」、これが私の信条である。好きな仕事ばかりではなく、やる仕事を好きになる。多様性のある人間になるためには、選り好みせず、あらゆることを学ぶこと。これからはこれが重要だ。そして、最も基本である当社創業の精神「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「情熱・熱意・執念」、社是、社員心得7カ条を実践し、創業者が目標に掲げる30年売上高10兆円を社員一丸で達成していく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年1月12日号1面 掲載