電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第513回

半導体産業の爆裂成長に決して歯止めはかからない!


ニッポン再生の夢を忘れないことが何よりも大切

2023/1/6

 2023年という新しい年が始まったのであるが、新型コロナウイルスの蔓延は決して収まってはいない。ロシア・ウクライナ戦争の影響による各国の軍事防衛費激増という現象は、世界のGDPを下げていくことになる。そしてまた、ひたすら高度成長を続けてきた中国の経済も、不動産バブル崩壊をきっかけにトーンダウンが著しい。

 とまあ、あんまり嬉しからぬニュースばかりが飛び交っており、IMFの世界経済成長率は1.2%増にとどまるとしている。この水準は、何とリーマンショック直後の2009年並みであるからして、あまり明るい年になるとは言えないのかもしれない。半導体産業は、この数年間にわたり、世界のGDPと同期する傾向が強まっているだけに、やはり暗雲は立ち込めているというべきであろう。

 2022年の夏ごろから始まった半導体の退潮傾向は、ずっと続いている。2022年の世界半導体産業は、前半戦はかなりの勢いで飛ばしていったが、後半からの腰折れにより、当初15%成長と言われたものが、最終的には4~5%成長にとどまったようである。

 しかして、その中身を見てみれば、不思議なことに気がつくのだ。ひたすら落ちているのはメモリー半導体ばかりなのである。それもとりわけDRAMの落ち込みがひどい。ピークで15億台の出荷があったスマホは12億台まで落ち込んでいる。コロナ特需ともいうべきテレワーク拡大により追い風が吹いたパソコンも上昇が止まるどころか一気下降であり、液晶TVも同じくほとんど伸びなかった。メーカー名で言えば、サムスン、SKハイニックス、マイクロンの3社は、2022年7~9月期の売り上げがおしなべて前年同期比20%減というありさまなのだ。

 ところが、である。SDGs革命の進展により、次世代エコカーの拡大が期待され、なおかつ再生可能エネルギーの中核となるパワコンの上昇などもあり、パワー半導体については全く伸びが止まっておらず、現状においても前年同期比10~15%増となっている。アナログ半導体も、少し落ちているがほぼ堅調である。驚くべきことは、世界最大のファンドリーである台湾TSMCの2022年通期の売り上げが、前年同期比40%増というミラクルな数字を出しそうな気運にあるのだ。これはなぜなのか。いつにかかってデータセンター向けの出荷が好調であり、増えた分の6~7割を5nm、7nmという最先端プロセスの製品が占有している。

 つまりは、半導体のトーンダウンといってもまだら模様であり、一気に全体が沈んでいるわけではない。ここで、現在の半導体産業の足腰が強くなってきたことを明確に意識しなくてはならない。汎用のスマホやパソコンが落ちてきても、データセンターや5Gの高速対応の通信が支える。自動車は、台数ベースでは大きくマイナスとなっているが、EV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車などのエコカーブームが到来しようとしており、さらに完全自動走行運転なども加われば、半導体をこれまでの数倍も使うことになる。

 加えて、メタバース革命の時代が到来すると言われており、スマホに代わる端末としてスマートグラス、スマートウォッチの急拡大が予想される。言うところのダウンサイジングの技術の流れは止まることがない。メタバースにより端末が代わることによって、エッジコンピューティングが必要になる。つまりは、街角のあちこちにエッジサーバを多く置かなくてはならない。これが爆発的な半導体の増大を呼び込むことは、疑いようのないところである。

 2023年の半導体産業は、久方ぶりのマイナス成長が予想されている。5%減という人もいれば、10%減という人もいる。ただ筆者は、現在の状況は一種の在庫調整に過ぎないと見ている。将来的な実需の流れが止まったわけではないのだ。

 ところで、日本政府はここにきて、Rapidusなる新会社を立ち上げ、ニッポン半導体の再生プランを高らかに宣言している。1990年段階で世界シェアが53%もあったニッポン半導体は、負けて負けて負け続けて、今やそのシェアは6%というありさまなのだ。ここまで追い詰められれば、体を張っての反転攻勢に出るしかない。


 政府が現状で出そうとしている支援金は微々たるものであるが、最低でも5兆~10兆円のスケールで支援しなければ、どうにも道は開けない。今こそ、ニッポン再生の道に賭けて欲しい。できなくてもいい。やれなくてもいい。実現しなくてもいい。

 夢は、それを叶えるためにあるのではない。夢はそれを追いかけるためにあるのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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