電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第484回

ラピダスに入り混じる期待と不安


2nmファンドリー実現に向けた多くのハードル

2022/12/23

 近年、様々な面で注目を浴びている半導体業界だが、2022年も多くのニュースがあった。そのなかの1つが、次世代半導体の量産を目指す新会社Rapidus(株)(ラピダス、東京都千代田区)の始動だ。キオクシア(株)、ソニーグループ(株)、ソフトバンク(株)、(株)デンソー、トヨタ自動車(株)、NEC(日本電気(株))、NTT(日本電信電話(株))、(株)三菱UFJ銀行といった日本の大手企業が出資し、2020年代後半に2nm世代の最先端ロジックファンドリーとして量産することを目指すと発表し、半導体業界に大きなインパクトを与えた。

 国もバックアップする体制を示しており、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクト「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発」を介して、700億円がラピダスに助成される。この助成金を活用してラピダスは、2nm世代のロジック半導体技術の開発を行い、国内でTAT(生産の開始から終了までにかかる時間)が短いパイロットラインを構築し、テストチップによる実証を行う。22年度については、2nm世代の要素技術の獲得、EUV露光機の導入着手、短TAT生産システムに必要な装置、搬送システム、生産管理システムの仕様策定、パイロットラインの初期設計を実施する。

設計やプロセスの人材育成も必須

 しかし、本格始動間もない現段階から、ラピダスの取り組みに対して不安視する意見も少なからず出ている。その1つが先端半導体の設計だ。ラピダスはファンドリーであるため、当然のことながら半導体の設計は別の企業が行うことになり、その企業がラピダスの顧客となる。だが現在、最先端プロセスを用いる半導体を設計している企業は日本におらず、最先端プロセスを用いたチップを搭載するような機器もない。現在、最先端のチップが用いられているのは、スマートフォンやデータセンターなどが多く、日本企業はそうした分野では存在感を発揮できてない。

 つまり、ラピダスが成功するためには、最先端半導体を設計するファブレス企業(もしくは企業の半導体設計部門)ならびに最先端チップが必要なアプリケーションの創出も求められる。日本が強みを持つ自動車の領域だと、自動運転用のAIチップなどは対象となる可能性がありそうだが、それだけではラピダスのファンドリー事業は成り立たず、ラピダスの成功のためには日本の半導体設計力を向上させる必要がある。

ラピダスの小池淳義社長(右)とimecのルク・ファンデンホーブCEO
ラピダスの小池淳義社長(右)とimecの
ルク・ファンデンホーブCEO
 次に人材の問題もある。当然のことながら現在、2nmプロセスに精通したエンジニアは日本にはいない。TSMCの熊本新工場で使用する22/28nmおよび12/16nmプロセスに対応できるエンジニアも日本にはいないとされるなか、2nmプロセスのラインを構築・運営できるのかという声は多い。その対策の1つとして、ラピダスは、世界的な研究開発機関であるimecとMOC(協力覚書)を12月6日に締結。ラピダスは、人材育成や共同プログラムの参加のためにimecに技術者を派遣し、2nm世代の半導体生産に不可欠なEUV露光技術をはじめとした様々な要素技術の研究を進め、先端半導体のアプリケーションの創出にも取り組んでいく。

 また、12月13日にはIBM(米ニューヨーク州)と、先端半導体技術に関する戦略的パートナーシップを締結。IBMが21年に発表したナノシート技術を用いたGAA(ゲートオールアラウンド)トランジスタ技術の研究開発を進める。さらに、次世代半導体の量産に向けて、ラピダスと両輪をなす研究機関として「技術研究組合 最先端半導体技術センター」(LSTC)の立ち上げが予定され、imecやIBMとのプロジェクトとも連動していくとみられるが、現状では未知数の部分が多いと言わざるをえない。

立地、装置、資金なども課題に

 さらに、20年代後半の量産に向けて製造拠点を国内に整備することにもなるが、インフラ、災害リスク、サプライチェーン、自治体からの支援などの面で、半導体工場の整備に適した場所の選定も難航が予想される。単純な比較はできないが、TSMC熊本新工場が敷地面積約21.3万m²、建設面積約7.2万m²の規模で整備されることから、ラピダスの工場もある程度の大規模になることが予想され、それに合う敷地は国内に多くない。仮に現段階で候補地がすでにあったとしても、最先端半導体工場の整備ノウハウを持つゼネコンも必要となる。

 そして建屋が完成したとしても、2nmプロセスに必須となるEUV露光装置が手に入るのかという点も課題となる。周知のとおりEUV露光装置は蘭ASMLが独占供給しており、製品を待つ列には先端半導体メーカーがすでに数多く並んでいる。また日本でEUV露光装置を使用すると高圧ガス保安法の適用対象となる可能性が非常に高く、輸入や使用に関して厳しく規制されることになり、そのため規制緩和なども必須となる。

 そのほか、単純に資金の問題も出てくることが予想される。ラピダスの小池淳義社長は「規模感において、TSMCやサムスンのレベルを追いかけることはしない」とし、「先端を回していくということが極めて大事。ファンドリーは先端技術の方が、収益性が高い。素晴らしいパフォーマンスを出すものには高い値段で買ってくれる方がいるということ。我々はそれを目指しており、(その時々の)先端3世代程度を手がける」との方針を示している。つまり、TSMCやサムスン電子のように毎年数兆円レベルの設備投資を行うような規模ではないとしているが、それでも先端3世代の半導体を生産するためには、大規模な投資が必須となる。現状では先端半導体を設計できる企業がほぼいない日本において、そうした資金を生み出せるほどのビジネスが構築できるのかという点も懸念材料となる。

 というように、課題となりそうな点をざっと書き連ねたが、これ以外にも課題は出てくるだろう。だが、筆者でも思いつくような課題は、ラピダスならびに経済産業省なども当然のことながら把握しているはずだ。そのうえでラピダスの設立に至ったということは、ある程度の成算があるということだ。不安や課題が多い状況であることは間違いないが、まずはラピダスが描くビジネスプランをしっかりと見ていきたいと思う。


電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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