電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第512回

世界GDPの23年成長率は1.2%増、リーマンショック後の09年並み


これに連動し半導体にも暗雲、最大の懸念要因は中国のトーンダウン

2022/12/23

 2023年という新しい年にかける期待は、ここに来てかなり望み薄になってきている。なぜならば、IMFがアナウンスした2023年の世界経済成長率は1.2%であり、なんとリーマンショック後の2009年並みの水準にとどまるというのである。

 これにはいろんな理由がある。まず1つには3年間にもおよぶ新型コロナウイルスによる経済低迷の状況は、そう簡単には取り戻せないのだ。そしてまた、ロシア・ウクライナ戦争のもたらしたことは、全世界の防衛費を3倍増に引き上げるという信じがたい決定が世界のほとんどの国でされつつあることだ。軍事防衛費は、世界GDPの1%程度であるが、これを2~3%にしようという動きが広がっており、復興支援にまわるお金が減っていく。

 我が国においても、岸田政権が少なくとも2%に持ち込もうということで、まずは1兆円の財源を作ることを国会で発表しただけでワーワー騒ぎまくる輩が一杯出て、混乱の極致であった。結局は、自民党内の反対も強くあって、決定の先送りとなってしまった。

 こうした情勢に加えて、何よりもの不安要因は、中国の経済悪化の急速進行にあるだろう。不動産バブルが崩壊し、これによって中国の人たちはお金をケチっている、つまり消費行動に火が点かないであるがゆえに、とりわけ液晶テレビ、スマホ、パソコンといった高額商品の購入は、とにもかくにも控えられているのだ。

 新型コロナウイルスに対するゼロ作戦という完全封じ込めもまったく効果を生まなかった。それよりも、自由と平和を求める人民たちの反乱が目立つほどになり、中国政府は慌てふためいてゼロコロナを全面撤回した。ところが、である。思ったとおり、これを解除した途端に、感染の拡大が進み、死者は一気に急増しているようであるが、中国政府はほとんど発表していない。

 中国を取り巻く状況の悪化はこれだけではない。チップ4と呼ばれる作戦がバイデン政権から出てきた。何のことはない、米国、日本、韓国、台湾で中国の半導体強化策に打撃を与え、その産業育成に歯止めをかけるという挙動なのである。

 正直言って、これがこのまま進むとはとても思えない。韓国や台湾にとっては、半導体の最大輸出先が中国であり、この封じ込め作戦に全面賛同することなどあり得ないだろう。日本においても農業品、工業品などを含めて最大の輸出国は米国ではなく、中国である。これを考えあわせれば、このチップ4がまともにいくとはとても思えない。

 しかも米国は、オランダにも圧力をかけて、半導体露光装置という分野で世界チャンピオンであるASML社の中国向け輸出をストップしろと言ってきた。同社における中国向け比率は全社売り上げの15%くらいがあり、これはバカにならない。なぜならば、それを全部失えば、ASMLを追いかけて装置の世界第1位を狙っている日本の東京エレクトロンに抜かれて王座を失うことになる。それは許しがたいことであろう。


 それはともかく、あらゆる不安要因がクロスオーバーする2023年は、決して明るい年明けとはならないであろう。半導体産業はいまや世界のGDPの成長率と同期しており、ここにも暗雲は広がっていくのだ。それでもSDGs革命、DX革命、メタバース革命という3つの新たな革命が進行していくことは間違いないわけであり、年後半からの経済上昇、そして半導体の反転攻勢に期待したいと切に思うのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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