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第504回

東京工業大学 異種機能集積研究ユニット WoWアライアンス 教授 大場隆之氏


先端3D技術で企業と連携
23年に台湾で試作ライン構築へ

2022/12/9

東京工業大学 異種機能集積研究ユニット WoWアライアンス 教授 大場隆之氏
 東京工業大学・異種機能集積研究ユニットの大場隆之教授は2008年、半導体3次元集積技術の相互発展を目指す場として、WoW(Wafer on Wafer)アライアンスを設立した。今回、同アライアンスは、台湾・国立成功大学と連携し、独自のアーキテクチャー「BBCube」(Bumpless Build Cube)のパイロットライン設置に着手。アライアンスの詳細や展望について、大場教授に話を伺った。

―― WoWアライアンスについて。
 大場 WoWおよびCoW(Chip on Wafer)プロセスを軸としたアライアンスだ。参加企業は約40社で、設計、装置、材料、検査など、サプライチェーン全体を包含しており、協力研究員を含めると、参画人数は約200人に上る。組織規模は、膨大な技術の擦り合わせに欠かせない協調開発の結果だ。日本の工学には技術を実用化するノウハウが不足しているという課題がある。そこで、今ある技術を研究で終わらせずに、開発、そしてアライアンス企業が世界一を目指して実用化まで進めるための仕組みづくりをしたいという気持ちから、当アライアンスを設立した。
 アライアンスは国の予算を利用していない。1つには製造に立脚した開発活動であり、10年先の市場の本命が微細化追従から3次元集積技術とシステム性能に変わるためだ。アライアンスでは、「BBCube」を頂点に全体技術をモジュールに分け、適時修正可能な実験計画に基づいた分散開発を行っている。このため常に先端技術でインテグレーションすることが可能になり、各社のコアコンピタンス、先行者利益につながっている。

―― どのような研究開発を行っているのでしょうか。
 大場 最小配線長の3次元集積をテーマとして、バンプレスTSVを用いたWoWおよびCoWの研究開発を行っており、300mmウエハーの超薄化技術、垂直配線技術、ウエハーを際限なく積層できる技術なども開発している。これらの技術を活用し、当アライアンスでは、バンプレスのWoW・CoWによって異種デバイスのチップレット集積を可能にする次世代3次元集積アーキテクチャー「BBCube」を提唱している。

―― BBCubeの特徴は。
 大場 BBCubeの要は、最小配線で上下接続する、そして上下配線の並列性を極限まで大きくするということにある。バンプレスTSV接続であるので、配線長がウエハー厚となり、理論上の最小配線が可能だ。よって、抵抗と電気容量を抑えることができ、低遅延にも効く。また、上下配線の並列性を上げることで、伝送帯域を毎秒テラバイトとしても、ビットあたりの伝送エネルギーを、従来のHBMに比べて1桁小さくすることができる。システムの消費電力は世界最小だ。また、小型化に伴い熱特性が重要となり、システム熱設計が製品性能と信頼性を決める時代になった。高密度のバンプレスTSVにより、熱の散逸性が大幅に良くなるので、チップレット集積に対する熱設計の容易性が改善された。
 1つのモジュールを作るだけで、いくつもWoWとCoWが使われるので、工数が膨大になる。つまり、量産されれば、それだけ半導体と装置のマーケットサイズも大きくなると考えている。

―― 台湾国立成功大学との技術協力を発表されました。
 大場 我々の技術を実用化するためには、パイロットラインの形成が必要だと考えた。そこで半導体に関する産業や投資が最も盛んな台湾との連携を決めた。パイロットラインは、成功大学主導で設置する予定だ。連携のフレームとしては、我々が持つ技術やノウハウを、当アライアンスのビジネス化を担う(株)テック・エクステンション(TEX)に移管して、TEXと成功大学で連携するというかたちを取る。

―― パイロットライン設置のスケジュールは。
 大場 22年内には設置場所を確実に決めて、年明けには設置と構築、設備の発注に着手したい。成功大学の新学期が始まる9月からは、設備の納入状況を見ながら詳細設計に入り、できる工程からユニット単位で実用化に向けたプロジェクトを開始したいと考えている。23~24年にはラインを稼働させることが目標だ。

―― アライアンスメンバー企業はどのように携わっていくのでしょうか。
 大場 現地での開発には、アライアンスメンバーも参加する。また、我々が作成した工程フローでは、検証に用いた装置と工程がワンバイワンの関係になっており、アライアンスメンバー企業の装置や材料を使って計画しているので、パイロットラインの構築もそのとおりに行う予定だ。アライアンスメンバーの協力によって、パイロットラインの設置が可能になっている。メンバーにはユニット単位、単行程単位での提供などで還元することも考えている。

―― 今後の展望は。
 大場 将来、実用化に至ったときには、台湾のファンドリーやOSATと提携することも考えている。また、量産の段階に入り、歩留まり向上に向けた開発となると、ウエハーレベルなど前工程から培われた知見が必要になるので、前工程も巻き込んだプロモーションをしていきたい。他者と連携し、量産ラインを立ち上げることも状況次第ではあり得ると考えている。
 さらに、若手の育成が急務であるが、残念ながら国内半導体産業の衰退とともに先端技術に対するOJTの機会がゼロに近い。半導体産業における未来に向けた研究・開発は、日本国内にあるべきと考えており、将来オープンな環境で活用できる同様のパイロットラインを日本国内に設置する予定である。その場合、実際に設備・材料に触れながらの研究・開発を学生に経験してもらうことが可能になる。我々は、治政を超えてプラットフォームを提供している立場であり、様々な産業との連携を進め、技術の横展開が進むことを期待している。これは当校が提唱しているASIAN INDUSTRY HIGHWAY構想の一環である。


(聞き手・編集長 稲葉雅巳/有馬明日香記者)
本紙2022年12月9日号3面 掲載

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