電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第509回

CMPの世界的権威 土肥俊郎氏、The Outstanding Achievement Award受賞の栄誉!!


革新的高性能デバイス実現のために後工程・化合物半導体にも踏み込む

2022/12/2

 世界の半導体産業は今や65兆円の巨大市場を築くに至った。この発展については古くはトランジスタの増幅作用の発見、プレーナー法の開発、光学式ステッパーの開発、CMP(Chemical Mechanical Polishing、化学的機械的研磨)技術の進展など様々な技術的ブレークスルーがあったことは周知の事実である。

 「多層配線用として、平坦化CMP技術は1990年前後から急速にその技術開発と採用が拡大してきた。CMPなくしては層間絶縁膜、銅配線などの画期的な超LSIデバイス技術開発はあり得なかった。とにもかくにもCMPによって平坦化しなければ、今日の微細ナノレベルのLSIデバイスプロセスは確立できなかった」

九州大学名誉教授 土肥俊郎氏
九州大学名誉教授 土肥俊郎氏
 こう語るのは九州大学および埼玉大学の名誉教授であり、理化学研究所の客員研究員でもある土肥俊郎氏である。同氏はCMP技術の世界的権威として知られている。日本の荏原製作所や米国のアプライドマテリアルズなどがCMP装置を量産化している今日、土肥氏が創設した精密工学会「CMPプラナリゼーションとその応用専門委員会」という組織が、半導体産業の根幹技術として飛躍的な成長をもたらした原動力の1つとなったと言っても過言ではない。

 「シリコンウエハーを適用するLSIデバイスにおいて平坦化CMPを進めてきたが、微細化を中心にしたMore Mooreから、近年ではMore Than Mooreという考え方が出て、後工程の平坦化と接合も重要だ。3次元チップレットなどにおけるキー技術・ハイブリッドボンディングの時代が本格到来すれば、さらなる高度な平坦化CMP応用が必要になる。このためにはCMP融合加工、トリミング、超薄片化などの加工技術確立が大切であり、現在私はここに徹底注力している。“後工程にも春がきた”と揶揄されるように、これまでの2~3倍以上の設備投資が見込まれSDGs時代を迎える。後工程にも投資拡大すれば、高速大容量デバイスの発熱対策を含めて、電力消費が相当に低減できよう。このような観点からも、前工程のみならず、どうしても後工程にも踏み込んだ平坦化CMP応用を達成しなければならない」(土肥氏)

 さてこう熱く語る土肥俊郎氏であるが、2022年9月27日~29日に米国ポートランドでICPT2022というCMPに関連する国際会議が開催され、その席上で長年の卓越した業績に対し、第1回の功労賞/Award(ICPT/"Outstanding Achievement Award")が贈呈された。この賞は平坦化CMP技術の分野に重要かつ永続的な貢献をした個人を表彰するために設けられたものである。各国から推薦された多くの候補者の中から、ICPT Award委員会にて候補者が厳選された。そして、今回の栄えある第1回受賞者は、九州大学名誉教授の土肥俊郎氏と米国MIT(マサチューセッツ工科大学)教授のDuane Boning氏の2名が圧倒的多数で選ばれたのである。特に土肥氏の受賞理由は、日本のプラナリゼーションCMP委員会の創設者、CMPに関する国際会議の提案者で、CMP技術の進展等に卓越した功績を残し、併せて若手の教育啓蒙に尽力されていたことであった。

 「ここにきては日本勢が得意とするSiCやGaNなどの化合物半導体、ダイヤモンドに注目している。ダイヤモンド半導体は究極のデバイスと言われており、これが実用化されればとんでもないことになるのは確かである。内外の各大学研究機関では、ダイヤモンド半導体の研究が進んでいるが、私はこれらに積極的に関与していこうと思っている」(土肥氏)

 いやはや、土肥氏の熱情は汲めども汲めども尽きないのである。自らが代表取締役となって株式会社Doi Laboratoryという会社も運営されておられる。現在ではCMPの研究開発に必須な“ダイナミック電気化学(d-EC)測定装置”も手がけており、外国も含めて10台前後出荷(予約含む)しているとのことである。革新的高性能スラリー開発の実現に向けてこの装置は大きな威力を発揮するという。Doi Labでは、超精密加工プロセス技術、CMP技術、難加工材料の高効率加工プロセス、ダイラタンシー現象応用加工、プラズマ融合CMP技術と応用、HPMJ(High Pressure Micro-Jet)洗浄とその応用などをキーワードとする加工技術開発を中心にして、まさにブレークスルーともいえる開発に期待したい。

 「CMP技術をひたすらに追求してきたが、ここにきて人材教育も最重要と思っている。台湾TSMCの熊本新工場進出の効果は大きい。関連する設備投資も巻き起こっており、このことを契機に半導体分野に進みたいという学生たちが多くなってきた。文字どおり、九州シリコンアイランドは空前の盛り上がりを見せている。私もできうる限りの力を注いで、九州の発展に寄与しなければならないと考えている」(土肥氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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