電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第501回

理化学研究所 量子コンピュータ研究センター センター長 中村泰信氏


超伝導量子ビットの生みの親
初の国産量子コンピューター公開へ

2022/11/18

理化学研究所 量子コンピュータ研究センター センター長 中村泰信氏
 グーグルやIBM、インテルなど、大企業が開発競争を繰り広げる超伝導型の量子コンピューター。この基本素子である超伝導量子ビットを世界で初めて生み出したのが、現在東京大学で教鞭を執る中村泰信氏だ。2021年から理化学研究所の量子コンピュータ研究センター長も兼任し、日本の量子研究を牽引する同氏に話を伺った。

―― 中村先生のお生まれは。
 中村 大阪で生まれ、小学生以降は東京都西多摩郡日の出町で自然に囲まれて育った。今でも自然に触れることが好きだ。小学生の頃から理科が好きな子供だった。中学卒業後は、都立立川高校に進み、サッカー部に入った。サッカーは今も趣味の1つで、コロナ前まで続けていた。高校卒業後は東京大学理科一類に入学し、物理工学科へ進んだ。研究室では、当時ホットだった高温超伝導の研究を行った。

―― 修了後、NECに就職されました。
 中村 修士課程のころ、半導体デバイスの微細化が進んだことで、今でいうナノ領域を扱うメゾスコピック系の物理が注目されていた。これに興味を持ち、当時世界でも最先端の半導体研究環境のあったNECの基礎研究所に入った。NECでは、新機能素子研究部に配属され、未来の半導体技術の開発に取り組むことになる。

―― その後、どのように超伝導量子ビットの発見につながっていくのでしょうか。
 中村 最初に取り組んでいたのが、電子を1つずつ制御して動作させる単一電子トランジスタの研究だ。私は、たまたま超伝導材料であるアルミニウムを使ってデバイス作製に取り組んでいたことから、超伝導量子ビットのアイデアへと派生していくことになる。その発見につながることになる実験は、物理現象を解明したいという自分の好奇心に基づいた実験だった。

―― 超伝導量子ビットの発見について詳しく教えて下さい。
 中村 超伝導素子内では、電子がクーパー対というペアを組んで動く。このペアを一つひとつ動かすという研究に興味を持って実験するなかで、このペアを使えば、量子の重ね合わせ状態を実現できるのではと考えた。原子や分子よりもマクロな電気回路という世界でも、量子力学の原理が働くのかということを確かめたかったのだ。最も難しかったのは、作った重ね合わせ状態をいかに観測し、その証拠をいかに得るかという点だった。観測の仕方を試行錯誤し、エネルギー準位が2つに分裂していることを重ね合わせの間接的な証拠として、1997年に論文を発表した。

―― 今では、この中村先生のアイデアが、世界中の超伝導量子コンピューターの礎になっています。
 中村 この時点では、まだ量子コンピューターという概念が世間で注目を集めてから数年で、情報に疎かった私は量子コンピューターに使うということはまったく想定していなかった。しかし調べてみると、自分のデバイスがまさに量子ビットとして使えるとわかった。そこで次は量子ビットの制御に向けて研究を進めることになる。振り返ってみると、科学の研究は予想どおりには進まないということを実感する。

―― 量子コンピュータ研究センターでの取り組みは。
 中村 当センターには、客員を含め約200人の研究者が在籍しており、約15の研究チームがある。量子コンピューターに関する研究所では国内最大規模だ。超伝導方式だけではなく、光やシリコン、冷却原子を使った方式も研究している。この分野は黎明期なので、多様性をもって研究していくことが大事だ。また、私がチームリーダーを務める超伝導量子エレクトロニクス研究チームでは、国プロである「Q-LEAP」に参画し、超伝導量子コンピューターの実装に向けて取り組んでいる。

―― 国産量子コンピューターの公開については。
64量子ビットのチップは2センチ角(写真提供:理化学研究所量子コンピュータ研究センター)
64量子ビットのチップは2センチ角(写真提供:理化学研究所量子コンピュータ研究センター)
 中村 22年度末に、初の国産量子コンピューターとなる超伝導方式のハードを公開予定だ。16量子ビットと64量子ビットのチップで実験を進めている。まずは共同研究を行っている方々に使ってもらうことを想定している。我々のハードの大きな特徴は、制御のための配線技術にある。量子コンピューターは、量子ビット数の多さだけでなく、その制御の精度が非常に重要だ。通常はチップの横方向に行う制御配線を、垂直方向に行う技術を開発した。これにより配線の混雑をかなり緩和でき、集積化もしやすくなる。16ビットのチップを64ビットにするときも、同じ構造で単純に4倍にできることが強みだ。

―― 今後の課題は。
 中村 1つは、配線の先にある部品の問題だ。制御用のマイクロ波部品は、量子ビットの増加とともに数が増えるうえに、サイズも大きい。小型化に関して何らかの対策が、世界共通の課題となっている。また、量子ビットのばらつきの改善も必要だ。これは、微細加工技術を極めれば基本的には解決できるはずだが、まだ突き詰められていない。さらに将来的には、エラー訂正技術も必要になる。量子コンピューター開発には、至るところでブレークスルーが求められている。そこはアイデア勝負なので、日本が世界に追いつくためには、新しいアイデアを出していくことが重要だ。

本紙2022年11月17日号4面 掲載

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