電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第499回

横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 准教授 井上史大氏


目指すは「日本版imec」
4月にコンソーシアムを設立

2022/11/4

横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 准教授 井上史大氏
 チップレットや3Dヘテロジーニアスインテグレーションなど先端パッケージ分野の開発に注目が集まるなかで、日本国内でも産官学連携で研究開発に向けた取り組みが活発化している。1986年生まれの36歳で横浜国立大学准教授を務める井上史大氏は、日本国内でヘテロジーニアスインテグレーションに特化したコンソーシアムを設立するなど、業界内での注目度を高めている。同氏は大学卒業後、世界的な半導体研究開発機関であるimecに研究職として約10年間在籍するなど、半導体研究開発の最前線に触れてきた人物だ。同氏に2022年4月に設立したコンソーシアム「HIYA(Heterogeneous Integration Yokohama Alliance)」の取り組みや今後の活動について話を聞いた。

―― まずは、これまでのご経歴から教えて下さい。
 井上 関西大学大学院に在籍中、imecの研究インターンシップに参加したことがきっかけで、その後東北大学のポスドク制度なども活用させてもらいながら、imecには11~21年の実質10年間にわたって所属していた。研究テーマは3D実装に関連し、TSVやめっき、CMP、研削、ダイシング、そして最近注目を集めているウエハー接合などに関わってきた。

―― 日本に戻るきっかけは。
 井上 文部科学省の卓越研究員事業に応募し、それに受かったことで日本に戻る決意をした。この制度は海外にいる日本人研究員を日本に呼び戻そうという狙いもあり、日本の半導体産業にも貢献したいという気持ちもあって、同制度を活用していた横浜国大に籍を置かせてもらうことになった。

―― 10年間在籍したimecはどんなところですか。
 井上 意外かもしれないが、組織としては古く設立は1984年だ。imecの名前が世界的に知れ渡るのは2000年代以降なので、実はそれまでのあいだは非常に苦労していた。これは私のHIYA設立の経緯にも関係するのだが、コンソーシアムは長くやらないと意味がない、成果は出ないと思っている。
 imecの成功、そして強みは半導体に特化した機関であることと、有力な地場企業が存在せず優遇すべき企業がいなかったこと、早期にR&D専用のクリーンルームを立ち上げたことが挙げられる。また、ASMLとともにEUVへの賭けに勝ったことも結果的には大きかった。

―― HIYA設立のきっかけは。
 井上 日本に戻ってくると、研究テーマや案件はあるものの、予算が少額であったり、大学と企業の1対1の関係であるものが多く、このままでは日本の強みである装置・材料メーカーのプレゼンスが失われてしまう危機感を覚えた。そこで必要なのはエコシステムであり、オープンイノベーションプラットフォームであることを痛感し、HIYAを設立した。まだ研究会レベルに過ぎない組織ではあるが、その趣旨に共感してもらって、すでに30社の企業に参画してもらっている。これは私の持論でもあるが、著名な研究者が「この指止まれ」でコンソーシアムを設立しても、その人のポテンシャルを超えられないと思っている。
 同時に、重要なことはこの輪の中心には私や横浜国大がいてはダメということで、我々はコンソーシアムの一参加者に過ぎないということだ。我々はあくまでも協創に向けた枠組みづくりが重要な仕事で、すべての技術を取り込んで、総合体として世界市場に売り込んでいくことが最も大事だ。

―― 今後の目標は。
 井上 夢は大きく、日本版imecを作ることだ。2050年に世界最大の半導体コンソーシアムとなるべく、現在はその助走期間として試行錯誤を続けている。ただ、そっくりそのままimecは無理だとも思っていて、日本の立地・強みをしっかりと生かしていきたい。日本が強い装置・材料メーカーが今のプレゼンスを守れるような研究や支援を行っていきたい。ただ、パッケージや実装は日本が強いイメージがあるが、今後のトレンドを考えると決して安泰とはいえない。

―― 具体的には。
 井上 先端分野ではファンドリーやIDMが後工程分野にどんどん進出してきて、後工程分野のサプライチェーンが飲み込まれてきている。今後は前工程技術で後工程を行うケースが一層増えてくる。こうしたなかで、前工程装置と後工程装置の連携が今まで以上に必要になってくると考えており、これをつなげる「ハブ」「ブースター」としての役割をHIYAでは担っていきたい。

―― 研究テーマは。
 井上 ニーズが高く、今後のキーテクノロジーとなるハイブリッド接合が当面のテーマだ。ただハイブリッド接合は世界各地で開発競争が繰り広げられており、特色を打ち出すのも難しい。少し視点を変える必要がある。例えば、後工程技術で前工程を手がけるケースも増えると考えており、配線構造において裏面に電極を配置するBSPDN(Back Side Power Delivery Network)などは日本でやる価値のある面白い存在だと思う。高価なEUV装置なども要らず、日本の前工程装置メーカーと後工程装置メーカーの連携が物を言う領域だと思う。

―― 今後の活動について。
 井上 HIYAを国家プロジェクトの受け皿とするべく、技術研究組合への組織変更を予定している。来年度からは新しい体制でスタートするために、現在鋭意作業を進めているところだ。

(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2022年11月3日号1面 掲載

サイト内検索