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第498回

日本マイクロソフト(株) Mixed Reality プロダクトマーケティングマネージャー 上田欣典氏


MRセットで法人市場を開拓
オフィスでメタバース構築

2022/10/28

日本マイクロソフト(株) Mixed Reality プロダクトマーケティングマネージャー 上田欣典氏
 マイクロソフトは、MRヘッドセットのHoloLensを2016年(日本は17年)に上市して以来、MR市場を開拓してきた。19年にはHoloLens2を上市し、さらなる活用を進めている。日本マイクロソフト(株)Mixed Reality プロダクトマーケティングマネージャーの上田欣典氏に、製品戦略や事業方針などについて伺った。

―― 製品の特徴から。
 上田 HoloLens2は、ヘッドセットにCPU、メモリー、バッテリーなどを搭載した、一体型MRデバイスだ。Windows10が標準搭載され、クラウドサービスのMicrosoft Azureと連携し、クラウド上で処理した情報を表示することもできる。シースルーで外部が見え、ヘッドセットの前面部分に赤外線センサーと4機のRGBカメラを搭載し、リアルタイムで現実空間をスキャンして情報を取り込んでいる。センサーにより、手のジェスチャーでの操作も可能だ。
 また、アイトラッキングセンサーカメラも初搭載した。これは、生体認証機能のWindows Helloの技術を活用している。眼球の動きを精緻に検知できるため、視線の動きだけでWEBのスクロールもできる。当社はモジュールを自社開発しており、アイトラッキング技術も基礎研究を長年続けている分野だ。モジュールの小型化と低価格化を実現し、2世代品に搭載することができた。

―― ターゲットは。
 上田 開発当初から、B2B、B2B2Cといった法人用途をターゲット市場としている。MR/ARデバイスは、コロナ禍やメタバースにより注目されて急速に導入が進んだものの、これから普及していくような技術だ。まずは、法人市場をしっかりと作っていく。
 当社は、法人のなかでもフロントラインワーカーの働き方改革を重視してHoloLensの導入を推進してきた。1世代品を上市したときにはMRという言葉も浸透しておらず、デバイスの評価やPoC(Proof of Concept)などが多かった。年数を重ねて2世代品も上市し、徐々に現場での利用が増えている。
 HoloLensの強みは、法人市場でディファクトスタンダードであるWindowsが使えることだ。Azureなどとの連携が簡便で、日常的に使用している機器との親和性が高く、セキュリティー面での安全性が高いことが有利な点だろう。

―― 日本市場について。
 上田 日本は製造業が多く、米国に次ぐ大きな市場で重視している。採用事例としては、日産自動車様が現場スタッフの作業手順を自習できる「インテリジェント作業支援システム」として導入されている。北海道電力様は、発電所内の巡視点検業務を支援するために導入された。川崎重工業様も「インダストリーメタバース」として実証中だ。さらに、医療向けでも導入が始まった。順天堂大学様では、患者のより詳しい身体情報が必要となる診察のために活用されている。
 また、日本は世界で最もアプリ開発者が積極的だ。当社でも20以上の企業と提携してアプリ開発を促進しているが、日本には開発者のコミュニティーがあり、HoloLensの発売前から非常に盛り上がっていたほどだ。

―― 民生向けでは。
 上田 VRデバイスは民生市場のニーズを捉えたものの、AR/MRはニーズの発掘が難しく、キラーコンテンツが無い状況だ。将来的には視野にあるが、まだその時期ではない。しかし、いずれの用途にしても、小型軽量化や低価格化は追求される課題だろう。
 また、当社の事業はクラウドサービスなどからの収益がメーンであることを活かし、ハードウエアだけでなく、ソフトウエアやクラウドサービスなどのテクノロジーの観点からもMRの実現に取り組んでいる。

―― メタバースについて。
 上田 非常に重要市場と捉えている。当社では、メタバースを人やモノのあらゆるデジタルツインが配置されたデジタル空間と定義している。わかりやすく言えば3Dのインターネット空間といったイメージだ。これまで、テレビ、PC、スマートフォン(スマホ)などの端末で見られるのは2Dの世界だった。これを、3DやMRの技術を用いて、Feel presence(存在を感じる)、Experience together(一緒に経験する)、Connect from anywhere(どこからでもつながる)をコンセプトとした空間の構築を目指し、「Microsoft Mesh」プラットフォームを開発した。
 クラウド上のデジタル空間で、遠隔地にいる人々との交流やコラボレーションが図れ、どんなデバイスからもアクセスが可能だ。ここでは、キャラクターのようなアバターや、実際の身体を3Dスキャンした「ホロポーテーション」というアバターで存在することができる。
 現在はHoloLens用のアプリ「Mesh App for HoloLens」のプレビュー版を公開している。HoloLensを装着すれば、世界中のどこからでも会議などに参加できる。場所の制約を超越するだけでなく、リアルタイムでの翻訳も可能で、言語の壁も無い。
 このほか、PCやスマホ、タブレットなどからアクセスできる「Mesh for Microsoft Teams」も開発中だ。Teams内にメタバース空間の設置を計画しており、Teams会議にアバターで参加したり、Teams内の(オフィスの)廊下で立ち話をしたりといった、コミュニケーションもとれる。現在はアクセンチュア様が導入し検証中だ。
 将来的には、VRデバイスやHoloLensからもアクセスできるようにし、何からでもつながる空間にしていく。
 メタバースの世界を現実空間に存在させることは、当社がHoloLensでずっと手がけてきたことであり、現場作業用途では出来上がりつつある。今後は、オフィスでの導入も推進し、より多くの人々が現実とデジタル空間をシームレスに利活用できるように取り組んでいく。

(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2022年10月27日号6面 掲載

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