「半導体業界における核弾頭とも言うべきNVIDIAの業績はズタズタである。22年5~7月期の純利益率は10%、純利益722億円で、前年同期比で言えば、実に72%減である。得意とするゲーム向けについては33%も減って、売り上げは2246億円に留まった。何ということなのだろう」。
これは筆者が親しくする有名アナリストのため息をついての言葉である。ご案内のとおり、半導体市況は秋口を迎えてかなりのトーンダウン現象が目立ってきた。前期のNVIDIAばかりではない。とりわけメモリー各社が軒並みすさまじいことになっている。
マイクロンは、22年6~8月期売上高が前期比21%減であり、台湾のナンヤの22年8月売り上げは5カ月前の53%減となっている。とりわけDRAM市場がとんでもないことになっているのだ。サムスンの22年3Qについては、前期比約20%減と見られている。
しかしてメタメタと言われるNVIDIAにあっても、データセンター向けの売り上げは、前年同期比61%増の4178億円と一気急増していることに注目したい。そしてまた、自動車向けも前年同期比45%増になっていることもよく分析しなければならない。
今始まった半導体の退潮は、いつにかかってスマホとパソコンの不振にあると言えるのだ。とりわけ不動産バブル崩壊でとんでもないことになっている中国におけるスマホは、とにかく芳しくない。もちろん、パソコンも良くない。世界全体としても、高額商品を買わない傾向は続いており、テレワークによる巣篭り特需があったパソコンは横ばいから下降気味であり、スマホについては基本的にはワールドワイドで伸びが止まっている。このことで、DRAMに代表されるメモリーが直撃されたのだと筆者は見ている。
ところが、世界データセンター市場は年平均でいえば10%以上成長しているのだ。13兆~15兆円の世界における投資がずっと続いていくという見通しがあり、GAFA+Mを中心に、ここの投資は止まることがない。それはそうであろう。メタバースであっても、エッジコンピューティングであっても、はたまた5G~6Gの高速通信であっても、データセンターはすべての鍵を握るからだ。ちなみに、NTTも先ごろ、400億円を投じて京都府内にデータセンターを建設することを決めている。
こうした状況下で、半導体前工程装置の22年における出荷額は、14兆3000億円にとどまると予測され始めた。前年比で言えば9%増になるのである。半導体生産そのものの伸び率は、かつての強気の13~15%増が7~8%増へ引き下げられており、デバイスメーカーが設備投資にブレーキを踏むのは当然のことなのだ。筆者が常に指摘するように、半導体生産金額に対する設備投資の割合が20%以内であれば、まったく安全圏であり、問題がない。すなわち、シリコンサイクルによる半導体地獄がやって来るとはとても思えない。
生産の伸びが鈍化することに合わせて、設備投資もトーンダウンすることは決して間違っていない。それが健全な姿なのである。それをワーワーと騒ぎ立てるアナリストやジャーナリストがかなり多いのであるが、局地的な見方はするべきではない。
ただ、中国の不動産バブル崩壊により、ベンチャー投資が半減していることは問題だろう。22年上期の中国のベンチャー投資額は4兆円であり、前年同期の8兆円に比べて、なんと半減している。そこに回す金がなくなってきたのだ。そしてまた、中国の半導体企業の倒産は、22年1~8月で3740社にも及んでいる。ちなみに、21年の倒産も3420社と急増した。中国にかけてきたバラ色の夢は、曇りがかってきたことは間違いない。
ちなみに中国政府は、2025年までに半導体自給率70%の目標を立て、これまでになんと15兆円の巨額を半導体産業に注ぎ込んできた。とんでもない補助金ばらまきをやったのである。ところがどっこい。2019年で言えば、中国の半導体の国内製造は16%にとどまっている。そして、すごく重要なことは、海外企業を除けば、中国における半導体自給率はたったの6%しかないのである。とてもではないが、25年までの70%という数字は達成できるわけがない。中国の市況変化には、今後も注意を払う必要があるだろう。
さてところで、日本製の半導体製造装置の8月の販売高は、前月比8%増の3473億円となっており、2カ月連続で増加している。かなり好調であると言ってよいだろう。ただし、中国における経済の停滞や、スマホ、パソコン需要の減速、そしてまた世界GDP自体の停滞懸念もあり、不透明感が強まっている。先行きについては、装置各社も慎重に見ているに違いない。
キヤノン製KrF半導体露光装置
「FPA-6300ES6a」
そう考えていたのであるが、キヤノンは、宇都宮事業所内に500億円を投じて、半導体露光装置の新工場建設を決めてしまった。販売台数については、前年比約3割増の180台を見込んでおり、直近10年で生産4倍を考えているというのであるから、恐れ入ったものだ。同時に、日本最後の切り札と言われる微細加工技術であるナノインプリントの開発も進めるという。
そしてまた、日立ハイテクも200億円を投じて、韓国と台湾に技術開発拠点を新設する。東京エレクトロンも、熊本に大掛かりな投資を行い、同じく技術開発棟を立ち上げている。成膜装置が主力のKOKUSAI ELECTRICも先ごろ富山県砺波市に新工場の建設を決めた。次世代に向けての準備を怠るわけにはいかない、という日本の半導体装置産業の強い意志が垣間見られるとも言えそうだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。