電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第11回

MEMSセンサーを増産すべきと思うのだ


センシングが開拓する次世代アプリケーション

2013/9/13

 日本の半導体メーカーは、もっとMEMSセンサーの事業化を積極的に推進・拡大すべきだと思っている。WSTSでもJEITAでもセンサー市場は右肩上がりが続くと予測しており、常にあちこちで見張られているようでイヤな気もするが、センサーは我々の生活やインフラにもっともっと浸透してくるはず。現状で日本メーカーはセンサー市場で世界的に高い地位を確保しており、例えば、スマートフォン(スマホ)やタブレットに搭載されている電子コンパスでは旭化成マイクロエレクトロニクスやヤマハが高いシェアを誇っているし、ICカードを利用するインフラも拡大している。

 センサーは、新市場を切り開く可能性も秘めている。一例として、6月に政府が閣議決定した成長戦略「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」のなかに、インフラ点検・診断システムという項目がある。橋や道路、ビルといったインフラに各種センサーを設置し、このデータをもとに基礎情報を収集して点検・補修に役立てようという試みだ。ここには、この試みによって、センサーの市場を現在の0.5兆円から2030年には10兆円、モニタリングの市場が現在の0円から2030年には20兆円に拡大させると書かれてある。こうした用途のすべてにMEMSセンサーが採用されるとは言わないが、国家の重要インフラをメンテナンスするセンサーを海外製に頼るというのは日本人としてあまり感心しない。多くを国産化すべきだろう。

世界のセンサー市場規模


ロボットと医療が需要創出

 日本の半導体がかつての勢いを失った理由の1つに、お家芸だった家電・AV機器市場でのシェア凋落があると考えている。家電メーカーの1部門であるケースが多かった日本の半導体メーカーは、家電・AV機器市場でシェアを落とすと同時に、内製で搭載していたデバイスの市場も失うことになり、新たに伸びてきたパソコンや携帯電話市場でも海外の主要ブランドから多くの受注を獲得することができなかった。家電・AV機器に代わる、デバイス需要を牽引するアプリケーションを見失ってしまっているのが現状だろう。

 では、家電・AV機器に代わるアプリケーションは何か。それは「医療」と「ロボット」だ。医療に関していえば、日本は先進国のなかで最も病院で亡くなる方が多い国だと聞く。高齢化の進展に伴い、嵩む医療費を抑制するため、国の政策は在宅医療へ舵を切っており、在宅で使用できる小型の医療機器やセンシング、モニタリングといった機能は今後ますますニーズが高くなる。ウエアラブル機器で血圧や心拍数を常時モニタリングし、日ごろの健康管理に役立て、病気を未然に防ぐといったセンサーネットワークの広がりは、まさにこれからシステム作りを含めて本格化の波が押し寄せる。日本発のiPS細胞やこれを利用した再生医療の実用化にだって、センシング技術は必要不可欠だろう。

 ロボットについては、先の福島第一原発事故に投入されたロボットが海外製だったことに正直ショックを受けた。こうした災害時に限らず、介護支援や生産現場のさらなる自動化にはヒューマノイドに近いインテリジェントロボットが活躍するようになると思われる。こうしたロボットは、いわばセンサーの塊だ。先述したインフラ点検・診断システムにおいても、国はインフラの非破壊検査にロボットを活用する方針で、ロボット市場を現在の50億円から2030年には2兆円に拡大する方針。ロボットは、自動車と同様に、日本人が得意とするメカトロニクスとエレクトロニクスの刷り合わせ技術が必要な点でも、日本人向きのフィールドである。

2020年のセンサー需要


ライン資産を有効活用できる

 MEMSセンサーは、製造という点でも日本に向く。半導体製造の歴史が長い日本では、韓国や台湾、中国といったアジア諸国に比べて先端製造ラインが少ない、つまり300mmウエハーラインが少なく、200mm以下の比率が高い。だが、製造に300mmラインが不可欠なデバイスを考えてみると、DRAMやNANDに代表されるメモリー、パソコン用のMPU、最近ではイメージセンサーやマイコンなど、実のところそれほど多くない。アナログやパワーデバイスはまだ200mm以下で十分であり、300mmを活用しているのは、アナログではTexas Instruments、パワーデバイスではInfineonのみ。ディスクリートのなかには、いまだ4インチという製品も存在する。LEDは最大6インチであり、世界の主流はまだ2インチだったりする。MEMSセンサーも200mm以下で十分採算が取れる製品に該当するため、先端ラインが少ない日本メーカーでも事業化しやすいといえる。

 ただし、日本にはコスト競争力が高い200mm工場が少ない。海外メーカーに比べてウエハー投入能力の小さい工場が多く、製造プロセスの微細化も止まっている。スペシャリティーファンドリーのTowerJazzがMicron Technologyから200mmの西脇工場を買収したことをベンチマークとして考えれば、適用するプロセスノードにもよるが、月間5万枚以上の投入能力を確保すれば、コスト競争力のある生産拠点として運営できるのではないか。仮に450mmが実用化されたとしても、2020年に存在している450mm工場は世界中で4~5カ所が精一杯だろう。450mm時代が来ても、競争力のある200mm工場は、引き続き有力な生産拠点として地位を維持できるはずだ。

世界の200mm工場

 こうした視点から考えれば、日本の半導体メーカーに不足しているのは、競争力の高い200mm工場を整備するための設備投資だ。もちろん、日本で半導体を製造していくには、人件費や電力・水道料金などに代表される高いインフラコスト、海外に比べて高い法人税や優遇制度の不足といった、不利な側面があることは理解している。だが、MEMSセンサーは、デバイス単体ではメモリーほど意味を成さず、アプリケーションに組み込まれてなんぼのデバイス、つまり市場の創出に寄与してくれるデバイスだ。センサーの製造に特化した多様なプロセス技術、これを効率的に量産できる製造拠点、さらにロボット、医療、ひいて言えば自動車といったアプリケーションが有機的に組み合わされば、日本半導体メーカーの復権にMEMSセンサーが一役買うと考える。

 ただし、いつの時代も一番難しいのが、これらが有機的に結びつくビジネスモデルの創造。日本人にとって、もっともハードルが高いのはここかもしれない。


半導体産業新聞 編集長 津村明宏

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