次世代太陽電池(PV)の開発競争がヒートアップしている。次世代PVの最有力候補とされるのがペロブスカイト太陽電池(PSC)で、日本企業も商業化に向けた取り組みを加速している。一方で、PSCよりも開発の歴史が古く、商業化の実績があるカルコパイライト(CIGSなど)や有機薄膜太陽電池(OPV)も新たな挑戦を開始している。
PSCの実証実験が急増
PSCが次世代PVとして期待される理由はいくつかあるが、最大の理由は変換効率が高いことだ。米国NLR(National Laboratory of the Rockies)の最新データによると、PSCの変換効率は小面積セル(0.051cm²)で28%(HainanU、NPVMで認証)に達しており、小面積とはいえ、すでに結晶シリコン(Si)と同等の変換効率を実現している。
なお、結晶Siでは、LONGi(中国)がHIBC(Hybrid Interdigitated Back-Contact)技術を採用したPVセルで変換効率28.13%(ISFHで認証)を達成した。効率だけで比較するとPSCと同水準だが、こちらはセル面積が139.7cm²とかなり大きい。また、同セルを用いたPVモジュールで26.4%の変換効率を実現している。さらに、LONGiはPSCと結晶Siを積層したタンデム型で35.2%の世界最高効率を達成している。
PSCは変換効率が高いが、技術的には依然として開発途上である。ただ、実用化に向けた実証実験が急増しており、日本国内だけでも100件以上の実証プロジェクトが進行中で、発電性能や耐久性、さらには施工性の検証が進んでいる。
PSCの商業化で先頭を走るのが積水化学工業で、26年3月にはPSCの事業化を決定した。現在、幅1m、長さ3mのフィルム型PSCを生産しており、26年度は1MW程度を生産&販売するが、27年度には100MWの生産ラインを立ち上げ、供給量を拡大する。フル稼働は28年度を予定しており、同年度中には事業の黒字化を見込む。
もっとも、これ以降の生産増強については、生産技術革新への投資(約50億円)を優先し、性能向上とコスト削減を前倒しで実現した上で、さらなる増設を図る。順調にいけば、28~29年度に1GWの生産ラインの建設に着手し、30年以降の生産開始を目指す。1GWの生産ラインがフル稼働すれば、売上高は1000億円規模が期待できるとしている。
京都大学発スタートアップのエネコートテクノロジーズは23年秋にパイロットプラントを立ち上げたが、25年6月には100億円を投資し、京都・宇治市で量産工場の建設に着手した。技術開発では、G2サイズ(370×470mm)のPSCモジュールで変換効率15.2%を実現しているが、25年度に採択されたNEDOプロジェクトでは、ロール・ツー・ロールプロセスの量産技術を開発するほか、市場規模の大きい屋外定置型用途への参入も視野に入れている。
パナソニックは独自のインクジェット(IJ)技術を活用してガラス建材一体型PSCを開発しており、実用サイズ(804cm²)のモジュールで変換効率18.1%を実現している。26年から試験販売を開始し、29年の量産を目指しているが、IJ塗布装置の外販も計画している。カネカは結晶シリコン(Si)とPSCを積層したタンデム型を開発しており、さいたま市で実証実験を開始した。順調にいけば、28年度の販売を目指している。
欧米企業も商業化に乗り出す
欧米企業もPSCの実用化を加速している。First Solar(米国)は23年にEvolar(スウェーデン)を買収し、同社が保有するPSCの技術を活用して、高効率のタンデム型PVの開発に乗り出したが、26年にはOxfordPV(英国)とPSCに関する特許ライセンス契約を締結した。OxfordPVの技術を活用して高性能なPSCを開発することで、米国でのタンデム型モジュールの量産を目指している。
TNO(オランダ応用科学研究機構)は、PSCの商業化のためのスピンオフ企業のPerovion Technologiesを立ち上げた。金属箔を用いたフレキシブルPSCを開発しており、小型セルから、10cm角のモジュール、さらには、建物の屋根に設置可能なソーラールーフ瓦モジュールに至るまで、すべての開発プロセスを完了している。30年までにオランダに工場を建設し、フレキシブルPSCの量産を開始する予定だ。
そして、TNOおよびPerovion Technologiesと戦略的パートナーシップを締結したのが東洋製罐グループである。東洋製罐グループは25年からTNOと連携し、自社の機能性材料であるMiraNeo製品(フロントシート、バックシート、端部封止材)をTNOが開発したロール・ツー・ロールプロセスに最適化する取り組みを進めているが、戦略的パートナーシップを締結することで、PSCの早期事業化を支援する。
FuturaSun(イタリア)もPSCの商業化に向けて新会社のSunXTを立ち上げた。SunXTは欧州で最初にPSCを開発したSolertixの知見をベースとしている。Solertixは現在、FuturaSunグループの一員としてタンデム型の研究に取り組んでいるが、SunXTも4端子構造のPSC/Siタンデムの商業生産を計画している。
東京ガスはPower Roll(英国)とPSCの共同開発契約を締結し、日本国内でPSCの実証実験を開始した。Power Rollはロール・ツー・ロール製造技術を活用したITOフリーのフレキシブルPSCを開発しており、両社は日本国内における製造・供給体制の共同構築の可能性についても検討する。
カルコパイライトは再挑戦
PSCと並び、次世代PVの有望株とされるのがCIGSに代表されるカルコパイライトPVである。カルコパイライトPVはソーラーフロンティア(当時は昭和シェルソーラー)が07年から商業生産を開始したが、22年に生産を停止し、同事業から撤退した。そして、旧ソーラーフロンティアの有志が20年に設立したのがPXPである。
PXPは、カルコパイライトPV、さらには、PSCとカルコパイライトを積層したタンデム型を開発している。4端子構造のタンデムセルで26.5%の変換効率を実現しており、26年の稼働を目指して量産工場の建設を進めている。
24年末には、ソフトバンクをリードインベスターとするシリーズAラウンドで総額15億円の資金を調達し、ソフトバンクは約10億円を出資し、PXPの株式の約29.9%を取得した。また、東京センチュリーはPXPが開発するカルコパイライトPVの普及拡大、さらには量産工場の建設を支援するため、26年にシリーズBラウンドにおける追加出資を決めたほか、PXPから優先的にPV製品の供給を受けるために業務提携を締結した。
名古屋電機工業もPXPと資本業務提携契約を締結した。PXPが提供するカルコパイライトPVを活用し、道路付帯設備を対象とした自立電源型システムの開発を強化する。
カルコパイライトPVを活用した実証実験も増えている。大日本ダイヤコンサルタントは新潟県妙高市役所で室内での発電効果の検証、東京ガスは京都府木津川市で壁面設置工法の検証、SOLABLEは新潟県で積雪の影響の検証、サントリーは自販機の自立電源の検証、JR東海は相模原市のリニア駅周辺での実証を行っている。
また、トヨタ輸送は車両運搬車、東プレは低温物流車、神奈川中央交通は路線バスにカルコパイライト型PVを搭載した実証実験を実施している。
さらに、東京センチュリーは、JFEエンジニアリングなどと共同でカルコパイライトPVを活用したPPAサービスを開始した。発電した電力を市内の公共施設に供給する。カルコパイライトPVを用いた自治体向けの太陽光PPA事業は国内初になるという。
東洋製罐グループもカルコパイライトPVの商業化に取り組んでいる。フレキシブルCIGSを開発するEnfoil BV(ベルギー)に出資し、同社の主要株主になった。EnfoilはTNO、imec、Hasselt Universityからスピンオフしたスタートアップ企業で、東洋製罐グループはEnfoilが製造するフレキシブルCIGS向けに自社の高機能フィルム「MiraNeo」を提供することで、Enfoilの事業成長を支援し、フレキシブルCIGSの市場拡大を目指す。
OPVも実証がスタート
OPVの開発の歴史は古く、1970年代から研究がスタートしている。当初は変換効率が低かったが、00年代にp型ポリマーのP3HTとn型可溶性フラーレン誘導体(PCBM)を組み合わせた素子の開発が活発化し、その後、分子内でドナーとアクセプターが共重合したD-Aポリマーが登場したことで、長波長の吸収が改善した。
近年はPCBMの代替材料として、ITICやY6、IT-4Fなどのノンフラーレン型アクセプター(NFA)が注目されている。変換効率の改善も進んでおり、最近では、Hyper PV(中国)が1cm²のセルで19.4%の最高効率を実現している。
OPVは01年設立のKonarka(米国)がいち早く商業化に取り組み、08年から量産を開始したが、12年に経営破綻した。日本でも多くの企業が研究開発に取り組み、商業化に乗り出した企業もあるが、その後、撤退が相次いだ。
現在、OPVの商業化に取り組んでいるのがGSIクレオスで、25年にブラジルのPHD(Power Harvesting Dynamics Semiconductors Impressos LTDA)と戦略的事業提携を締結したが、26年5月には共同で新会社のOuroboros Power Harvesting(OPH)を設立することを発表した。
27年末までにPHDが有するOPV製造技術をOPHに移転し、並行して実証実験やパイロット実装を行う。すでに、SDRSの赤城事業所(群馬県前橋市)で透過型OPVの実証実験を開始しており、27~28年に製造装置を導入し、29年以降に国内で本格的な生産を開始する。売上高は生産を開始してから数年以内に数十億円、30年代半ばには100億円規模を目指す。
山梨県でもOPVの実証実験が進んでいる。ブドウ園の簡易雨よけにOPVを設置し、発電した電力を蓄電池に蓄電し、夜間にLEDライトの光をブドウに照射することで、ブドウの着色が向上するという。
GSアライアンスは透過型OPVを活用した3次元的構造のジャングルジム型システムを提案している。縦横方向すべての支柱にOPVを巻き付けることで、より少ない面積で発電量の増大が期待できるとし、26年から実証実験を開始する予定だ。
材料開発では、麗光が次世代PV向けのバリアフィルムを開発している。40℃、90%の条件では5×10のマイナス5乗g/m²・日、85℃、85%の条件でも5×10のマイナス3乗g/m²・日の水蒸気透過度を実現している。
東洋インキは、印刷とリフトオフ法を組み合わせた安価な電極回路形成技術を提案している。印刷でフィルム基板に水溶性インキを用いてパターンを形成し、その上にITOをスパッタで成膜し、最後に純水で水洗いして水溶性インキを除去すればパターニングが完成する。フォトリソグラフィーに対してTCOのコストが80%低減できるという。
小森コーポレーションも印刷技術を用いたITO透明電極の高精細パターニング技術を開発した。ITO付きPETフィルムの上にパターニングを形成したマスクをかけ、マスクの上から酸を含んだエッチングペーストをスクリーン印刷で塗布し、パターニングを転写した後に低温加熱し、最後に洗浄すれば、50~100μm幅のパターニングが形成できるという。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾