ルネサス エレクトロニクスの売り上げがここに来て急増の勢いにある。2020年度は7407億円の売り上げであったものが、21年度はなんと前年度比53.6%増を達成し、1兆1374億円に押し上げたのだ。そして、22年度予想は同31%増の1兆4900億円になるというのであるからして、ただ事ではない。すなわち、たった2年間で売り上げ倍増という活躍ぶりを見せつけている。
ルネサスが17年度から4年連続で売り上げ7000億円台に留まっていた時は、まったくもってアナリストや評論家たちの意見は厳しかった。「日立、NEC、三菱の半導体事業を母体に誕生した会社なのに、統合効果なんかまったく出ていないじゃん」と吐き捨てるように言っていた人たちのことを思い出す。確かに、経営再建に向けて、政府による支援をずっと仰いできたルネサスは、一時期確かにみすぼらしかった。
ところがどっこい、21年8月には英国のダイアログ・セミコンダクターの買収に踏み切った。この統合により、市場別では車載が約4割と半分を下回った。残りは産業・インフラ・IoTなどである。非車載分野のアナログ製品が全体の38%を占めて、最大セグメントとなっている。車載に向けて全力を挙げる一方で、産業・インフラ分野などを強化していく方向性がはっきりと見えてきているのである。
そしてまた、21年6月には、AIソリューションプロバイダーのリアリティーAI社を買収した。AI導入のためのハード、ソフトの技術ラインアップが整えられたのである。21年8月には、イスラエル本社のアナログ半導体メーカーであるセレノコミュニケーションを買収した。先端Wi-Fiの技術を強化しようというのである。
外国にも打って出る構えも強まってきた。サプライズなことに、インドにおける自動車大手のタタと事業提携および技術提携を行うことになったのだ。インドはまだ二輪車が多いという世界であるが、これから本格的に四輪が増えてくれば、車載マイコン世界トップのルネサスの出番は確実に来る。インド自体が半導体徹底強化の方針を打ち出しているだけに、ルネサスがいち早くインドにおける体制を整えたことは評価できると言ってよいだろう。
直近では、ベトナムとの関係も強まってきた。ビンファストというベトナムの自動車会社との協業を拡大するのである。ビンファストは、年内にもEVの輸出を始める準備をしており、ルネサスとタイアップすることで先端技術を向上していく。もちろんルネサスはビンファストに、マイコン、車載向けSoCなどバラエティーに富んだ製品を供給していくのだ。
ルネサスは長くファブレスに向かうことを標榜してきた。それゆえに、18~20年にかけては設備投資はたったの200億円前後に留まり、もうまともな半導体メーカーとは言えないとまで酷評されたことがある。しかして、半導体の世界的な需給逼迫を受けて、やはり自社拠点の生産能力を増強しない限り、サプライチェーンを維持できないと考えたようだ。そこで、21年度は880億円の設備投資を行い、22年度についてはついに2000億円規模の投資を断行する。投資金額が1000億円を上回るのは、なんと2007年以来のことなのである。
一番の驚きは、14年10月に閉鎖していた山梨県甲府工場の稼働を再開させると言ったことだ。全体で900億円規模の設備投資を実行し、300mmウエハーに対応したパワー半導体の量産ラインを構築する。このことで、ルネサスのパワー半導体の生産能力は現在の2倍に引き上がるのである。
22年度の半導体ランキング予想においては、東芝系のキオクシアが1兆6500億円を上げ、トップを維持していくと見られている。しかしながら、メモリー市場の一気下落が始まった現在において、伸びの鈍化は仕方がないところがある。ルネサスはメモリーをまったく持っておらず、それゆえに堅調に上げていくだろう。ただ、ソニーグループがひたひたとルネサスの後に付けている。22年度予想では1兆4700億円を売り上げると言っているのであるからして、ルネサスの国内ランク2位の地位を脅かしかねないことは確かなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。