電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第58回

リチウムエナジージャパンは大型リチウムイオン電池に積極投資


~車載をはじめ航空、宇宙、鉄道、海洋、クレーンなどにも多角展開~

2013/9/13

(株)リチウムエナジージャパン 取締役 沢井 研氏
(株)リチウムエナジージャパン
取締役 沢井 研氏
 滋賀県栗東といえば、競馬ファンなら誰でも知っている栗東トレセンのあるところだ。栗東市は自然環境にも恵まれ、かつ交通の至便なことでも良く知られている。この栗東市の一角に世界で初めて車載用の大型リチウムイオン電池量産を開始したカンパニー、(株)リチウムエナジージャパン(栗東市蜂屋780番地1、Tel.077-551-4003)がある。

 「この会社の資本金は135億円で、出資比率はGSユアサ51%、三菱商事44.6%、三菱自動車4.4%となっている。自動車向けおよび産業用リチウムイオン電池の開発、製造、販売を目的に立ち上げられた。会社そのものは2007年12月に設立され、これまでに滋賀県草津工場に1号ラインおよび2号ラインが稼働しており、2010年12月には京都工場が稼働した。そして2012年3月には超大型工場である栗東新工場が立ち上がった。GSユアザグループ全体として、2010~2015年度までのトータル設備投資は、800億円以上という巨額なものになっているのだ」
 こう語るのは、リチウムエナジージャパンにあって取締役事業管理部長兼営業担当部長を務める沢井研氏である。沢井氏は兵庫県西宮に生まれ、父親は医者であった。甲陽高校を出て京都大学工学部に進み、電気化学を学ぶ。博士号を取得しており、テーマは硫酸鉛電池の研究開発であった。その後、リチウムイオン電池に開発の方向を変え、今日に至っている。

 「GSユアサグループは大型リチウムイオン電池については、20年間に及ぶ研究開発と納入実績を積み重ねてきた。特に高容量と高電圧のノウハウには強みを持つ。昨今では大型リチウムイオン電池といえば、すぐ車載向けを考える人が多いが、これまでの納入実績でいえば、宇宙衛星向け、海洋特殊分野、鉄道向け、クレーン用途、さらには無停電電源装置などに用途が広がっている」(沢井氏)

 リチウムエナジージャパンの工場生産能力は、まさに一気のうなぎ登りとなっている。2009年段階では110MWh程度であった設備能力は、2013年にいたって2300MWhに達している。ざっと4年間で23倍に引き上げたわけだ。期待を担う新工場である栗東工場は、延べ面積6万1000m²、年間生産量約800MWh(460万セル)であり、2012年春から出荷を開始している。三菱自動車のi-MiEV向け電池パックに搭載するLEV50(電圧3.7V)およびLEV50-4(同14.8V)を量産しているのだ。

 これに引き続いて第2工場棟延べ5万4900m²も、すでに棟屋は立ち上がっている。第1工場はフル稼働であり、第2工場は徐々に設備を入れていくという。EV向けだけではなく、プラグインハイブリッド車向けに供給する電池をタイムリーに量産していきたいとしている。EV向けは、1万台分は十分に作れる。プラグインハイブリッド車については5万~6万台の引き合いがあるが、まずは年産1万5000台からスタートさせていきたいという。

 「ありがたいことに、車載向けリチウムイオン電池では当社が世界の先頭を走っており、i-MiEVなど多くの車に供給させていただいている。また、JRの鉄道用の電力の補助にも大容量電池が使われるが、当社の製品が使われている。GSユアサグループは宇宙市場にも注力しており、人工衛星向けについては国内シェアで7割以上、世界シェアでも強く、欧州の会社とトップ争いを演じている。海洋特殊分野向けは6500m下の深海までの耐圧が要求される過酷な環境で使用されている」(沢井氏)

 産業用分野として期待しているのがクレーン用途だ。港湾向けのハイブリッドトランスファークレーン(LIM30H-8A)は、コンテナの巻き上げ減速時と巻き下ろし時に発生するエネルギーを高出力で繰り返し充電可能なリチウムイオン電池に蓄積し、巻き上げを効率よくアシストするものだ。エンジン最大出力は約3分の1まで抑制可能であり、燃料消費も約6割が低減できる。ディーゼルエンジンから出る黒煙もほとんどカットできるという優れものなのだ。コンテナ需要は世界的に増えているだけに、今後さらに伸びが期待できるという。

 「GSユアサグループは、大型リチウムイオン電池のリーディングカンパニーとして世界に知られている。いわゆるメードインジャパンの電池でエコカーをはじめとする新しいエネルギーデバイスの普及を促進し、安心で快適な未来の生活に貢献していきたい。一方、空気電池などポストリチウムイオン電池の開発も積極的に進めており、大型電池では絶対負けない、という矜持を持って働いている」(沢井氏)

 GSユアサの大型リチウムイオン電池は、1997年の宇宙向け出荷で成功し、これをダウンサイジングし小型化する戦略をとってきた。それだけに電機メーカーとは違う技術のカルチャーを持っている。小さいものを大きくするには、これをやるごとに異なる開発が必要になってくる。しかし大きいものから小さくしていくには、1つの開発で済む。ゆえに、GSユアサがとってきた戦略であるダウンサイジングは、まさに正解であったといえよう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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