電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第497回

半導体装置産業はいまだに逼迫、活況が続き、TELは世界ランク3位に浮上


半導体市場は成長率引き下げで23年は4%増、しかし日本が地域別で最高!

2022/9/9

 半導体製造装置の分野においては直近の決算が出ているが、日本メーカーは総じて好調である。国内最大手、東京エレクトロン(TEL)の22年4~6月期の半導体装置のセグメント利益率は29%もある。半導体装置全体の23年3月期売り上げは約2.3兆円の予想となっている。TELは世界装置ランキングで、アプライドマテリアルズ、ASMLに次ぐ3位に位置している。

 ニコンもまた好調で、23年3月期の精機事業の営業利益は26%増の350億円の予想であり、半導体向けは61台(26台増)。アルバックは半導体・電子部品製造装置の23年6月期売り上げが33%増の905億円見込み。キヤノンも22年11月期でインダストリアル部門は純利益22%増の2620億円の予想。住友重機械工業の22年12月期は純利益300億円の予想。

 ASMLのEUV露光装置はいまや価格は1台200億円を超えてきた。消費電力は1MW、一世代前の10倍増であり、台湾は電力不足に悩むことになる。TSMCのエネルギー消費量は台湾全体の6%になる。TSMCはEUVを80台保有しており、台南の新工場は3nmEUVを導入予定であり、このプロジェクトだけで2.6兆円を計画している。

 ちなみに、台湾の再生可能エネルギーは現状で6%しかないが、米インテルは21年段階で再生エネルギーが80%を占めており、SDGsで先行している。はてさて、EUVは10万個の部品で構成されるためバカ高いのは仕方がないが、消費電力という点ではどうにもならない。

 それはさておき、装置産業の引き合いは強く、2~3年先を見込んで発注は増え続けている。それゆえに、半導体設備投資もそれほどの落ち込みは当面は見せないと思われるが、市場が伸びないことはボトルネックであり、需給バランスの崩れに少しく注意を払う必要があるだろう。


 ちなみに、露光装置価格はEUVが突出して高いものであるが、日本勢が得意としている旧世代のレジェンド露光装置も決して安くはない。i線ステッパーは1台5億円、KrFは1台15億円、ArFドライは1台25億円、ArF液浸に至っては1台75億円であり、とにかく装置は高くなっている。

 最先端のEUVを入れれば、半導体の工程数はこれまでの700工程から1300工程と倍増するために、投資をしてもムーアの法則に準じたコストダウンが効かないという二律背反の不安感が業界を覆い始めたことは間違いのないことであろう。

 一方、半導体市場の伸び率については、WSTSが22年の従来の成長率見通し16.3%を少しだけ下げて13.9%とした。しかし、業界筋ではこの予想は甘すぎると見る向きが多い。今のところ、7~8%の成長が良いところであろう、と分析する人たちが多い。

 ちなみに、WSTSは23年の成長率予測は4.6%に留まり、19年以降で最も低い伸びに留まる見通しを明らかにした。ところが、おかしなことが起きてくる。来年の半導体売り上げの伸びはなんと、日本が5%増で地域別で最高となる見通しであるのだ。米国は4.8%増、アジア太平洋が4.7%増、ロシアのウクライナ侵攻が大陸全体の経済に波及している欧州の伸びは3.2%増に留まるという。

 それにしても、世界的な景気後退を受けて、急速な利上げが各国で進んでいるというのに、黒田日銀総裁はまったく利上げをするつもりがない。アベノミクスの金融緩和策を徹底的に維持していく考えであるからして、当然のことながら、ひたすらとんでもない円安水準に振れている。

 ところがどっこい。この黒田総裁の頑ななまでのアベノミクス維持が、ニッポン半導体にとってはデバイスも装置も有利に働くという成果をもたらしてしまう。信じがたいとしか言いようがない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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