九州シリコンアイランドは、いまだに日本の半導体産業にとって独自の存在感を保持している。すなわち、日本国内の半導体生産の40%はいまだに九州で作られているのだ。三菱電機のパワー半導体工場、ソニーのCMOSセンサー工場などはいずれも九州・熊本が量産拠点となっている。日本勢全体として設備投資が減速するなかで、いまだに九州エリアは投資が続行していると考えてよいのだ。
(株)オジックテクノロジーズ
専務取締役 金森大次郎氏
その九州熊本の一角にある(株)オジックテクノロジーズ(略称OGIC、熊本市上熊本2-9-9、Tel.096-352-4450)は、この市況不透明下において新たな工場用地を取得し、合志エリアに新工場建設を計画している。合志事業所は2007年に熊本県セミコンテクノパーク内に建設されたものであり、これは創立60周年のメモリアルとなる事業であった。
同社の専務取締役を務める金森大次郎氏は、中小企業に対し面倒見の良いことで知られている。熊本や福岡エリアの半導体関連の中小企業をつなぐネットワークとして、ITプラザ協議会とGamadas(ガマダス)という組織があるが、この幹事役として長く頑張ってきた。
「当社は九州日本電気(現在のルネサス セミコンダクタ九州・山口 熊本川尻工場)の指定工場としてめっき、リードフレームなど傑出した技術を提供することで、その地位を築いてきた。その後、東京エレクトロンと取引を開始し、半導体製造装置向け部品も強化してきた。しかして、現状では何といってもパワー半導体関連にその開発の多くを集中させ、ここから多くの技術が育ってきた」(金森専務)
同社の場合、大学や公設試などとの連携も多く、最近ではその研究開発のレベルの高さがかなりの会社に知られてきた。パワーモジュール基板、自動車部品、MEMSなどのめっき技術については、めきめきと頭角を現してきた。新たな量産新拠点となる合志事業所は、クリーンルームを完備しMEMS、自動車部品、パワーモジュール基板の量産に注力するために建設されたものだ。
「ありがたいことに2007年には中小企業庁から『元気なものづくり中小企業300社』に選定していただいた。2008年には日刊工業新聞社により『第3回モノづくり連携大賞新技術開発賞』受賞の栄誉に輝いた。やはり今後の発展の基礎は新事業創出にあると考えており、今後も徹底的に開発主導で事業を動かしていく」(金森専務)
同社の売り上げはピークで15億円であったが、ここ数年間は減速している。今回の新工場増設をキックオフに、まずは20億円の売り上げを狙って行くという。取引先は幅広く、大手メーカー(半導体デバイス、半導体製造装置、自動車、化学、医療)から九州地場の中小企業(自動機設備、機械加工、板金加工)まで約100社にのぼっている。
環境対策という点でも同社の場合は群を抜いている。Pbフリーはんだは毒性のある鉛を使用せず、環境に優しいがゆえにこれを多く使う。また、重金属フリーの無電解ニッケルめっきも得意技だ。これは電気めっきとは違い、電流分布の影響を受けないので、複雑な形状のものでも均一にめっきすることが可能なのだ。各種電装部品には最適のめっきといってよいだろう。
ニッポン半導体の後退ぶりや、九州エリアの存在感などについて伺ってみたところ、金森専務は明確にこう言い切ったのだ。
「九州エリアの中小企業の団結力は驚くほど強い。厳しい状況であっても、お互いの助け合い精神が旺盛だ。九州から情報発信し、グローバル事業に展開したいと、みんなが考えている。また、最近では環境エネルギー関連や医療産業関連などの開発も進めるなど、九州エリアの中小企業は常に勉強している。これがある限り、九州シリコンアイランドの存在感を支える黒子として私たちは頑張れるのだ」
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。