「世界の半導体市況はにわかに暗雲が立ち込めてきた。それは何と言っても、テレワーク急増によるパソコン特需がほぼ終わってきたことにあるだろう。実際のところ、国内においても首都圏の電車はラッシュ状況に戻りつつあるのだ」
こう語るのは、著名な半導体アナリストとして知られる南川明氏である。
南川氏によれば、2022年の半導体市況については、10~15%成長と見る向きが圧倒的に多かったという。その最大の理由は、DX革命によるテレワークの推進が世界的に進むこと、そして5Gおよび6G高速によるデータセンター投資の急増が見込まれることであった。
ところが、中国経済の急減速により、世界GDPの牽引役が不在となるため、極端に言えば、リーマンショック以来の世界経済リスクも考えられる、と南川氏は指摘するのである。2000年以降、世界のGDP成長率と民間の最終消費支出はほぼ同じ動きを示している。民間最終消費支出は、2020年の新型コロナ禍で大きく落ち込んだが、2021年はその反動から大きく伸びた。ところが、2021年の消費支出成長率はその年のGDP成長率を大きく上回っているわけであり、2022年はその反動でGDPが一気に下がってくるとも言うのだ。
「2009年第1四半期~2021年第1四半期における米中韓日の家計債務の変化を見てみれば、とんでもないことがよくわかる。中国の家計債務増加額は、なんと突出して9.02兆ドルとなっており、米国の2.82兆ドル、韓国の1.22兆ドルを大きく上回っている。ちなみに、個人金融資産が世界一という日本においては、この増加額はたったの0.04兆ドルであり、あまり影響を受けていない。中国の不動産バブルの崩壊が加速しているのは間違いないわけであり、このままいけば中国発の世界大不況も十分に考えられる。もちろん、半導体産業はこれに連動するのである」(南川氏)
こうした南川氏の話を聞いていて、筆者の頭はとにもかくにもグルグルと回るばかりである。2022年6月7日に発表されたWSTS(世界半導体出荷統計)の最新予測によれば、世界半導体市場は2021年に前年比26.2%増と大躍進し、5558億9300万ドルまで拡大した。2022年も同16.3%増の6465億5600万ドルと順調な2桁成長を予想していた。ところがどっこい、不安要因が増大したことで、多くの予想が下ぶれし始めた。今のところの気配では、2022年の世界半導体売り上げは7~8%増の予想が多くなってきており、いわばこの間の予想値よりも半減しているのだ。
「DX革命が推進されてきたのは、何と言っても新型コロナによる巣ごもり需要であった。家庭内のテレワークが急増したことにより、パソコン出荷はかなりの伸びを示してきた。ところが、2022年について、パソコン出荷は前年比13%減と一気に急落する見込みだ。当然のことながらパソコン向け半導体も大幅に減ってくる。タブレット端末もよくない。そしてまた、2022年のスマホ市場も前年比25%増と見られていたが、同3%増に大幅減となりそうだ。インフレの加速で、購買力に大きな陰りが出てきた。消費者は高額商品の購入を先送りしている」(南川氏)
そうした状況下にあって、半導体業界の世界チャンピオンであるインテルの2022年第2四半期の売上高は前年同期比22%減の153億ドルとなり、まさに頭を抱える状況となった。パソコン向けのCPUが不調である上に、データセンター向けチップのアップグレードにも遅れが生じているのだ。最も、インテルが浮かない顔をしている一方で、競合するAMDは台湾TSMCの最先端プロセスを使えることにより、実のところ笑いが止まらないほどに成長している。
さらに加えて、世界最大の半導体ファンドリー企業である台湾TSMCの第2四半期売上高は、なんとサプライズの前年同期比44%増と急伸している。ただ一方で、DRAMやNANDフラッシュメモリーなどのメモリー半導体の価格が下ぶれしており、この先は不安感が広がっている。
「一体どうなっているんだ。これでは先行きが読めない。2023年の半導体はどうなるんだ」とわめき散らすアナリストは数多い。筆者もまた、読者筋から雨あられの質問を受けている。半導体は大丈夫か、という声がひたすらに多いのである。これに対する答えを用意しないままに、目くらましとも言うべき発言を、筆者はすることが多くなってきた。
「確かに中国の影響で世界経済が減速しているが、よく考えてみよう。30年ぶりの円安で製造業の輸出は超儲かっているのだ。総合商社はウハウハで、笑いが止まらない。日本に生産拠点を設けて輸出すれば、メチャメチャに利得があるために、外資系の日本工場進出は加速する一方だろう。日本だけが得をする展開も考えられるのだ」
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。