電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第492回

リアルと仮想の境目に最先端半導体技術が存在している!


「東京ディズニーシー」で見たメタバースの夢の一夜

2022/7/29

東京ディズニーシーの夜は何だか仮想現実の世界であった
東京ディズニーシーの夜は何だか
仮想現実の世界であった
 ミッキーマウスの歌が流れてきた時に、不覚にも涙がこぼれてハンカチを取り出してしまった。この年になって初めて行った東京ディズニーシーでの出来事である。もちろん東京ディズニーランドにも行ったことがなく、あんなものは女子と子供の行くところと小馬鹿にしていた筆者であるがどうにもならなかったのである。

 何故だろうと考えた時に、子供の頃に見たディズニーのTV番組や映画の映像がフラッシュバックしてきたのだと思いあたった。涙を拭いている変なおじさんが一人で歩いている!という女子高生の視線がまぶしかった。そして、恥ずかしくて仕方がなかった。とにかくも、ここは中高年男が一人で歩くところではないのである。そしてまたミッキーマウスやドナルドダックに手を振るなど、とてもではないができない自分がそこにいたのである。

 それはさておき、少し冷静になって大観衆を集めているミッキーマウスのショウを見ていたら、夢中になって踊っている人たちの方にひたすら関心が行ってしまった。飛び上がっている女性は、もうそんなに若くはない。会社でいやなことがあっても、ここに来れば救われちゃうのよ、という感じであった。童心に帰るのではない。目の前にいるミッキーマウスの存在そのものが現実になっているのだ。

 仮想現実という世界がある。ARやVRというジャンルが本格的になってきた。メタバースの台頭と言っても良い。インテルによれば、メタバースの普及を実現するためには、現在のコンピューティング能力を1000倍にしなければならないという。まさかのまっちゃん!現在にあっても半導体は作っても作っても足りないのだ。一体メタバースの時代が本格化すれば、どのくらいの半導体が必要になるのかと考えたら、慄然としてしまった。

 戦後になって大きく世界経済を牽引してきたのは、自動車産業である。ピークの市場規模は300兆円を超えていた。ところが、新型コロナウイルスの蔓延により半導体不足が足を引っ張り、2割減の状況が続きこの市場は250兆円くらいに落ちているだろう。一方、電子機器は2021年に260兆円規模となり、ついに自動車産業を追い抜き世界最大産業にのし上がってしまった。時代は音を立てて変わりはじめたのである。電子機器の核弾頭とも言うべき存在が半導体であり、メタバースの時代がくればさらに加速していく。

 まさに、「半導体を制するものが世界を制する」という新たな時代の幕開けなのである。半導体はもはや先端ハイテクの単なる技術の一分野ではない。世界の安全保障、サプライチェーン、軍事防衛の要であり、そして世界の政治経済をリードしていくところまでその重要性が増してきた。世界各国が半導体支援策に注力するのは当然のことなのである。

 それにしても、最先端の半導体技術が実現するメタバースの世界はとんでもないことになるだろう。今は小さな画面で共有しているWeb会議が、3次元立体の360度のリアル会議と同じ状況になってしまう。各人の息使いも、表情も、眼の色もよくわかり、まるで現実のような会議が仮想現実の中で行われる。また500kmも離れたところの患者を診る医師の声色も、リアルに近いものになる。隣の国の災害もまったく本物のように目の前に現れる。工場のラインの点検や直しもリアルと同じようにできてしまう。

 そうなったらば、リアルと仮想の区別がつかず、迷い込む人たちが出てくるだろう。真実は仮想の方にあり、リアルは真実を語らないという人たちも増えるだろう。極悪犯罪についても、リアルと仮想の違いがわからない人たちもいっぱい出てきたら、どうなるのだ。

 こんなことを考えていたら、目の前の東京ディズニーシーの美しい夜景も、現実のものではないのかもしれないなどという妄想モードに突入してしまった。そして、お美しいお姉さまと一緒に手をつないでこの空間を歩いているかもしれない自分が視えてきた。もうアブナイ世界にさまよっている泉谷くんの2022年の夏の夜の夢でありました!


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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