商業施設新聞
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No.866

外資系ファストファッションの都心店に思うこと


高橋直也

2022/7/26

H&M原宿店が閉店する
H&M原宿店が閉店する
 H&M原宿店が閉店する。H&Mの発表によると、「契約満了に伴い8月2日を最終営業日として閉店」するとのことだ。H&Mは2018年に銀座店が閉店した際もニュースになった。銀座店はものすごい行列を作った外資系ファストファッションの先駆けともいえる店だったため、ファストファッションの潮目が変わった象徴のような扱いにもなっていた。もう一つの都心店である原宿店の閉店をもって、さらに潮目が変わった印象を受ける。

 H&Mに限らず、ファストファッションが都心に出店することには広告的意味がある。H&Mは「高級ブランドが揃う銀座」「トレンドの発信地である原宿」に出店することで、ブランドイメージを高めた。こうした店でブランド力を高め、郊外型のショッピングセンターなどで店舗を拡大していった。こうして「あのH&Mが家の近くのショッピングセンターに出店した!」と集客に成功した。ポジティブに捉えるならH&M都心店の閉店は、ブランドを広める役割を達成したので高い家賃を払う必要がなくなったためとも考えられる。ただ、7月には渋谷のBershkaも閉店しており、外資系ファストファッションの勢いが弱まっているのは間違いない。

 ただ、総務省の「家計調査」によると、衣服1枚あたりの価格推移は1990年が6848円だったのに対して、2019年は3202円で、服の値段は下がっているのだ。低価格が武器のファストファッションは、こうした環境にマッチしているように思える。そうなると、日本では「ユニクロ」「ジーユー」「しまむら」が強すぎることも要因か。加えて、ファッション全体の不振も大きな要因になるだろう。また、気にしない人もいるかもしれないが、外資系ファストファッションについては「生地の品質がもう少し良ければ」という声もある。このほか、かつてジョイントベンチャーとして外資系ファストファッションを展開していた企業によると、「日本側の意見を聞いてくれない」という話も聞いたことがある。外資系ファストファッションの勢いが弱まったことは、これらの理由が複合して起きているのだろう。

 今後の展開として、外資系ファストファッションに注目しているのが、「モノを売る以外の価値をどう提供するか」である。モノを売るだけならECで十分。いまはファッションに限らず、様々な業態で店に足を運ぶ理由が求められている。個人的に、この点を一番うまくやっていると思うのはアウトドアショップだ。テントの張り方を教えるなどアウトドア初心者には大変ありがたく、足を運ぶ意味がある。ファッション系なら店舗スタッフによる提案などがありうるが、最近はネットで下調べを終え、店舗には最後の確認として訪れる人も多いそうだ。こうした中で、海外は日本よりサステナブルについての意識が高いという話を聞く。商業施設においてもサステナブルが強く求められるようになってきた。外資系企業として、日本にはない新しい取り組みを店舗で実現できると、足を運ぶ理由にもなるはずだ。モノを売るだけでは難しい時代にどう生き残っていくか、注目している。
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