電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第462回

走り出すソーラーカー、太陽エネルギーでエコドライブ


タンデム型PVで効率とコスト両立

2022/7/22

 電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)のルーフに太陽電池(PV)を搭載したソーラーカーの開発が活発化している。トヨタ自動車は2017年から出力180WのPVを搭載した量産車(第2世代プリウスPHV)を販売しているが、欧州でも量産型ソーラーカーの開発が進んでおり、22年中の市場投入が予定されている。

 ソーラーカーは自動車にPV電力を供給するだけでなく、社会インフラとしての活用も期待されている。例えば、商業施設や空港などにソーラーカーを駐車して発電すれば、VPP(バーチャルパワープラント)として利用できる。

 将来的には、ソーラーカーへのワイヤレス給電も提案されている。太陽エネルギーを半導体レーザーに変換し、走行中のソーラーカーにレーザー給電することで、EV普及の課題となっている充電の問題が解決できる。さらに、光通信を組み合わせることで、自動車とインフラの連携強化が期待できる。

トヨタ、日産が実証走行

 トヨタ自動車は20年前からPVを搭載したソーラーカーの開発を開始した。同社は自動車に搭載可能なPVモジュールの面積は最大で5.4m²とし、PVの変換効率が17%の条件では、800Wの出力が得られると試算している。太陽光日射量が3.7kWh/日の場合、800WのPV搭載車は太陽エネルギーだけで1日あたり31kmの走行が可能になる計算だ。

 13年に試作した実験車(プリウスPHV)に出力840WのPVを搭載し、社内で走行試験を行った結果、平均発電量は2.1kWh/日で、1日あたり32km走行できることを確かめた。この実験車をベースに、17年2月には、180WのPVを搭載した第2世代のプリウスPHVを発表した。PV出力が増加したことで、PVで発電した電力でモーター走行が可能になった。

 19年からは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)およびシャープと共同で、第3世代となるPV搭載車の実証実験に取り組んでいる。PVはシャープが開発したIII-V族化合物3接合(InGaP/GaAs/InGaAs)を採用した。モジュール面積は3m²(ルーフ、フード、ハッチ)で出力は860Wである。走行試験の結果、1日平均17km、年間6000km以上をPV電力で走行できることを確認している。

 さらに、車載用PVの高効率技術として、高効率のIII-V族化合物PVと低倍集光レンズを組み合わせた低倍集光PV(LCPV)を検討している。入射光を最大限利用する技術として、モジュールの下にLSC(Luminescent Solar Concentrator)を配置したハイブリッドLCPVを提案している。

 LCPVは集光倍率3.5倍のレンズの下にIII-V族3接合PV(GaInP/GaInAs/Ge)を配置し、その下に透明樹脂母材(PMMA)の中に波長576nmに吸収のある蛍光色素を混ぜ込んだLSCを配置した構造になっている。LSCの側面には結晶シリコン(Si)を用いたEdge-PVを設置しており、III-V族とEdge-PVの電力を別々の電極から電力を取り出す4端子構造を採用した。

 同システムでは、入射光の50%をIII-V族PVが吸収し、残りは下に透過するように設計している。透過した光はPMMAに均一に分散した蛍光色素が吸収し、波長変換したのちに再発光する。その光は全反射して端面に設置したEdge-PVが吸収して発電する。

 ソーラーシミュレーター(1sun)では、LCPVの効率が26.8%、Edge-PVの効率が0.22%で、合計27.0%の効率が得られることを確認している。また、屋外試験では、曇天時にはLCPVの効率は下がるが、逆にEdge-PVの効率が上がることを実証している。実用化に向けては、レンズを含めた全体の厚さを現在の半分程度にする必要があるとしている。

 22年には、PVを搭載した新型EV「bZ4X」の市場投入を計画している。航続距離は約500kmだが、PVを搭載することで、1年間で1800kmの走行距離(社内試算値)に相当する発電量の生成が可能と見積もっている。

III-V族PVを搭載した実証車(日産自動車)
III-V族PVを搭載した実証車(日産自動車)
 日産自動車もNEDO、シャープと共同で超高効率PVを搭載したEVの開発に取り組んでおり、III-V族PVモジュールを搭載したEV「e-NV200」を開発した。PVの出力は約1150Wで、表面はポリカーボネートでカバーしている。実証車はボンネット、ルーフ、リアにボルトオンでPVモジュールを装着しており、PV電力だけで約20kmの走行が可能という。

Lightyearが量産開始

 欧州でも、PVを搭載した量産型EVの開発が加速している。Sono Motors(ドイツ・ミュンヘン)は16年の設立で、PVモジュールを車体全面に張り付けたEV「Sion」を開発している。21年には新型のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池(最大蓄電容量54kWh)の採用で、航続距離が最大305kmまで延びることを示した。

 また、フレキシブルPVモジュールとパワーエレクトロニクスを組み合わせた車載用PVシステムを開発しており、例えば、トラック用のPVシステムでは、54m²弱の面積で最大8.8kWの出力が得られる。

 最近では、トレーラーの製造企業であるCHEREAU(フランス)と共同で、PVを搭載した冷蔵トレーラーを製造する計画を発表した。冷蔵トレーラーの屋根および側面のスペース(設置面積58.9m²)を利用して54枚のフレキシブルPVモジュール(9.8kW)を設置する。発電した電力はバッテリーを経由して、冷却ユニットを動作するために使用する。今後、数カ月にわたる走行試験を行い、エネルギー収率や燃料削減効果、さらには、量産車に最適なPVシステムの検証などを行うという。

PSC/Siタンデムで効率30%突破(EPFL&CSEM)
PSC/Siタンデムで効率30%突破
(EPFL&CSEM)
 16年設立のLightyear(オランダ)もPVを搭載したEVを開発している。21年夏には、プロトタイプの「Lightyear One」を発表し、ドイツで走行試験を実施した。走行試験では、時速約85km、85.6Wh/hの電力消費量で710km以上の航続距離が可能なことを示したが、22年7月には、世界初の量産モデルとなる「Lightyear 0」を発表した。

 「Lightyear 0」はボンネットとルーフにPVパネル(5m²)を配置し、高効率インバーターと高密度バッテリーを組み合わせ、4つのイン・ホイール・モーターで駆動する。車体パネルは再利用のカーボンファイバーを使用している。蓄電池(60kWh)の航続距離は625km(WLTP)、最高速度は時速160kmで、高速道路では時速110kmで560kmの走行が可能という。

 PV電力で走行できる距離は1日あたり最大70kmで、例えば、良好な日射条件では、2時間のPV発電で20kmの走行に必要な電力を供給することができる。PV電力のみで年間6000km~1万1000kmの走行が可能という。家庭用コンセントからの充電にも対応しており、一晩で300km以上の走行が可能な電力を充電できる。22年秋から生産を開始し、同年11月から出荷を開始する計画だ。

Siベースで効率30%超

 GaAsに代表されるIII-V族化合物は変換効率が高いことから、設置面積に制約がある車載用には最適である。最近では、シャープが3接合型(InGaP/GaAs/InGaAs)モジュール(面積965cm²)で変換効率32.65%を達成しており、軽量&フレキシブルPVモジュールでは世界最高効率になる。ただ、現時点では製造コストが高いため、量産車への適用は難しい。そこで、結晶Siベースのタンデム型の検討が進んでいる。

 カネカは、17年に79cm²のHBC(ヘテロ接合&バックコンタクト)セルで変換効率26.7%を達成したが、現在、トヨタのプリウスのルーフにHBCモジュールを設置した試作車を開発している。さらに、PSC(ペロブスカイト太陽電池)とSHJ(ヘテロ接合)を積層したタンデム型も開発しており、これまでにタンデムセル(面積0.15cm²)で変換効率29.0%を達成している。

 東芝はEVやドローンなどのモビリティ向けに、透過型亜酸化銅(Cu2O)と結晶Siを積層した4端子構造のタンデム型の開発に取り組んでいる。Cu2Oは変換効率9.0%を達成しており、ボトムセルに結晶Siを用いたタンデム型の変換効率は28.0%と見積もっている。

 すでに、4cm角のタンデムセルを試作しているが、大面積化の開発も進めている。タンデム型モジュールは50×20cm(20セル直列)のサイズを想定しており、変換効率30%以上、発電量は30W以上、重量は1kg/m²以下を目指している。順調にいけば、23年までに開発・実証を終え、24年に認証を取得し、25年の量産を目指す。

 なお、開発したタンデム型PVをEVに搭載した場合、設置面積3.3m²、変換効率30%、PV出力1kWの条件では、PV電力で走行できる距離を39kmと算出している。

 PSC/Siタンデムは変換効率30%超を目指して、多くの研究機関が開発にしのぎを削っており、21年にHZB(ドイツ)が達成した29.8%がこれまでの世界記録だったが、22年7月に、スイスのEPFLとCSEMの研究グループが世界で初めて30%を突破した。

 研究グループは2種類のタンデムセル(1cm²)を試作し、Si表面にテクスチャーがある素子では変換効率31.25%、テクスチャーがない素子でも30.93%を達成(いずれも米NRELで認証)し、PSC/Siタンデムで30%以上の変換効率を世界で初めて実証した。今後、大面積化や耐久性の向上など、実用化に向けた開発を進めるという。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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