本紙で、通算3回目となるテーマパーク特集を執筆・掲載した。2013年に1回目、17年に2回目と、まるでオリンピックのような間隔で行ってきた特集も、3回目は新型コロナの影響があり、1年延長の実施となった。新型コロナの影響が色濃く残る状況であったが、快く取材に応じていただいたテーマパーク各社には、ここで改めて御礼申し上げる。
テーマパークは、アトラクションなどのハード整備に加え、イベントやパレード・ショーといったソフトの充実が欠かせないため、業界内では装置産業であるという認識が強い。他の業界と同様に、この装置産業には“波”がある。1回目の特集を企画した13年は、山の八合目に到達していた。オリエンタルランド(OLC)はパレードの刷新やアトラクションのリニューアルを行い、開業30周年を迎えた13年度に年間入園者数が3000万人を突破。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)も450億円を投資し、ハリー・ポッターエリアの開発を進めていた。近鉄レジャーサービスも新アトラクションの建設を進めるなど、13年は各社が投資合戦を繰り広げた年でもあった。
しかし、2回目を行った17年は、今思えば谷に向かう前触れだったのかもしれない。確かに、同年もOLCが東京ディズニーランドの大規模開発計画を発表し、USJも世界初のエリア「SUPER NINTENDO WORLD」を着工するなど、大型投資の話題は13年以上に溢れていた。その一方で、あまり話題に上がらなかったのが、テーマパーク内の混雑を危惧する声。日本政府が16年に掲げた目標「訪日外客数を20年に4000万人、30年に6000万人」の影響もあり、少しずつであったが、テーマパーク内にインバウンドの姿が見られるようになり、混雑が徐々に目立ち始めていた。これが谷への予兆だったのかもしれない。
そして今、テーマパーク各社は新型コロナという大きな谷を乗り越え、再び山に登ろうとしている。しかし、今回の山は特に険しい。と言うのも、新型コロナはテーマパークの課題のひとつであった「混雑」に一石を投じた。テーマパークはこれまで、人を多く集めれば良いという考え方であったが、それでは感染のリスクが高まってしまう。仮に新型コロナが収束を迎えても、別の感染症が広がる可能性も否定できない。実際、コロナ禍では、ゲストが参加するパレードを実施するめどが立たなかった。出演者もゲストもソーシャルディスタンスを確保できないのが理由とされているが、距離の確保よりも、混雑の回避を優先したと考えられる。来園者数を増やしたいが混雑は回避したい、この相反するジレンマと戦わなければならない。
テーマパークは装置産業であるが故に、設備投資は継続して行う必要がある。この投資余力を生み出すためには、売上高を上げることが必須であるが、前述のとおり、来園者数は一定の水準にとどめなければならない。そのため、テーマパーク各社が次に考えるのが、チケット=パスポートの値上げだ。すでにOLCやUSJなど3社が価格変動制を導入し、他社もパスポートの細分化といった施策を講じているが、大規模な投資を実行するためには、通常パスポートの価格見直しも考えなければならない。しかし、そこで生まれるジレンマが最近の物価高だ。確かに、食品や加工品であれば原材料の価格高騰もあり、値上げが受け入れられているが、物価高だからと言って、パスポートの値段を上げることはできない。来園者数の増加と混雑の回避、パスポートの値上げと物価高への対応、この2つのジレンマを抱えながら、テーマパーク各社は山への道のりを歩もうとしている。