半導体産業の先行きが少し懸念され始めている。何といってもロシア/ウクライナ問題で世界全体のGDPのかなりの部分が軍事防衛費に割かれることで、コロナ復興支援に必要な金額が足りない。また中国経済失速の影響も大きい。とりわけ不動産バブルの崩壊が暗い影を落としている。
「2022年の半導体生産額については前年比9%増を予想していた。しかして中国の上海に代表されるコロナ抑え込みの難しさが表面化してきた。このことで世界のサプライチェーンに大きな狂いが生じている。世界景気の後退はすでに著名な評論家が言い出している。こうなれば2022年の半導体成長率は下方修正の可能性が出てきた。3~4%増にとどまることも考えられる」
こう語るのは半導体業界の名物アナリスト、南川明氏である。南川氏によれば中国経済後退があっても、半導体は世界の安全保障さらには軍事防衛の要であるからして、中国の今後の設備投資については絶対に手を抜くことはない、と言い切ってもいるのだ。
それはともかく、世界最大手のシリコンファンドリー企業である台湾のTSMCはここにきて、同社の2022年売上は前年比30%増になる見込みであるとしており、まさにサプライズのアナウンスであった。なにしろ今や半導体製造の約40%はシリコンファンドリー企業が担うという情勢であり、ここ数年のうちには50~60%にも占有率が高まるという予想さえある。半導体が垂直統合で戦う時代の終焉が近づいているのかもしれない。(最もMPUとかメモリーなどは例外ではあるが)それゆえにTSMCは強気なのである。
台湾企業全体の投資意欲も凄まじい。現状において台湾ファンドリーにはトータル16兆円の投資計画が実行中である。敷地面積ベースでいえば、200万m²のところに20の新工場が建設中、または建設計画があるというのだから、とんでもないことだ。もちろん主役はTSMCであり、17の新工場を新竹、台南、高雄に設けることになっており、2ナノ、3ナノ、5ナノの最先端プロセスをシフトする。UMCも2工場、パワーチップも1工場を計画中だ。
ところで現状における半導体の世界チャンピオンであるインテルは、ここにきてはかなり弱気の予想を出し始めた。2022年については微増にとどまるか横ばいも考えられると専門家筋は見ている。大体が2021年のインテルの売り上げは766億ドルであり、伸び率はたったの0.4%しかなかった。これに対して競合するAMDは実に前年比67.7%増を達成しており、TSMCを活用する同社がインテルに攻勢を強めていると見るべきである。
とまれこうまれ、2022年の半導体生産は直近の数字でいえば、全く勢いが衰えていない。ただ、この夏を過ぎてからの逆風には、大いに注意を払う必要があるとは言えるだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。