AGC(株)は、半導体関連部材やオプトエレクトロニクス部材で構成されるエレクトロニクス事業をライフサイエンス、モビリティと並ぶ戦略事業と位置づけ、積極的な事業展開を見せている。2025年度(25年12月期)に売上高1800億円の達成を目標に掲げ、EUVマスクブランクスを筆頭に大型の設備投資計画を打ち出している。エレクトロニクス事業を主に統括する電子部材事業本部長の鈴木伸幸氏に現況ならびに今後の事業計画について伺った。
―― これまでのご略歴は。
鈴木 ディスプレー分野を長年担当してきており、18年からはスマートフォンなどのカバーガラスとして用いられる「Dragontrail」の事業に携わった。20年から電子部材事業本部長として半導体・オプト関連を担当するようになり、今年で3年目になる。この間、半導体市場は予想を大きく上回る成長を見せており、私が担当するエレクトロニクス事業もライフサイエンス、モビリティと並んで戦略事業の一角を担う存在として事業拡大に貢献している。
―― エレクトロニクス事業の売上規模は。
鈴木 21年度売上高は前年度比15%増の1233億円と2桁台のプラス成長を記録した。半導体関連部材とオプトエレクトロニクス用部材が主力分野で、残りはプリント配線板向けのCCL(銅張積層板)などで構成されている。22年度は20%以上の伸長を見込んでおり、1500億円規模を想定している。25年度には1800億円規模の売り上げ達成を目標に掲げており、ここまで順調にきている。
―― 半導体関連部材の状況は。
鈴木 売上高成長率でみると、最も大きく伸びたのはEUVマスクブランクスで、次いでCMPスラリーとなっている。また、半導体露光装置に用いられる合成石英ガラス、それとエッチング・成膜装置向けのSiC熱処理治具も製造装置市場拡大に伴い伸長した。
―― EUVブランクスの状況について。
鈴木 21年度は前年度比で売上高1.4倍を記録しており、25年度に売上高400億円以上の達成に向けて順調に進捗しているところだ。22年1月に、グループ会社であるAGCエレクトロニクス(株)(福島県郡山市)で、生産能力を増強することを発表した。23年1月から生産を開始し、段階的に増強を行うことで、当社グループのEUVマスクブランクスの生産能力は24年に21年末時点の約2倍に引き上がる見通しだ。
―― 顧客戦略については。
鈴木 詳しいことは申し上げられないが、複数のお客様で採用されていることは事実だ。他の半導体部材同様にお客様も基本的には複数購買を前提にしており、それはロジックもメモリーでも同じ傾向だ。当社はガラス材料からコーティングまでを一貫して手がけられる唯一のEUVブランクス供給メーカーであることを従来強みとしており、今後のブランクスの技術トレンドの変化にも柔軟に対応できると考えている。
―― EUVでは高NA化も進みそうです。マスク/ブランクスに対する技術要求の変化は。
鈴木 露光フィールドの縮小に伴うスループット低下を避けるため、現在主力のバイナリーマスクから位相シフトマスク(PSM)への移行が進みそうだ。PSMではブランクスを構成する膜に新たな特性が求められるほか、より低欠陥化のニーズが増し、我々の技術力や一貫工程を持つ強みが生きると考えている。
―― オプト分野は。
鈴木 IRカットフィルターが主力で、スマートフォン(スマホ)用カメラの多眼化と大型化が成長ドライバーとなっている。足元ではスマホ市場に減速感が出ているが、もともとハイエンド領域を主軸としているため、需要が低迷する中国スマホのような中低位機種の影響を受けにくい。
―― 最後に今後期待の製品や分野があれば教えて下さい。
鈴木 1つ挙げるとするならば、オプトエレクトロニクス部材の高折率ガラスだ。高視野角化が図れる光学部材で、AR/VR分野での成長が期待できそうだ。今後、メタバース領域の拡大で大きな成長機会が期待できそうで、また自動運転など車載分野への展開も見込める。エレクトロニクス分野における新たな事業の柱として育成できればと考えている。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2022年6月16日号8面 掲載