京セラ(株)は、2021年度からセグメントの組織体制を改め、そのなかのソリューションセグメントにディスプレー事業が加わった。液晶のみにとどまらない、非ディスプレー技術とも組み合わせたソリューション展開を加速させる。同社執行役員でディスプレイ事業本部長の池内雅文氏に聞いた。
―― ディスプレー事業の現在の状況から。
池内 18年に京セラ(株)は子会社の京セラディスプレイ(株)のディスプレー事業を継承し、引き続き車載用と産業機器用を中心に液晶ディスプレーの生産を行っている。車載用はヘッドアップディスプレー(HUD)を中心とし、産業機器用は多様なニーズに応じて幅広いラインアップを揃えている。
拠点としては、研究開発と前工程の製造を行うメーンの拠点である滋賀野洲工場(滋賀県野洲市)と、海外に後工程拠点の中国・東莞(SKC)とタイ・ランプーン(KTC)がある。SKCはもともと産業機器用を製造していたが、22年1月に張家港の拠点を閉鎖したのに伴い今後は車載用も生産していく。また、KTCでは車載用を製造している。
―― 製品の高付加価値化を進めている。
池内 メモリーを内蔵したMIP(Memory in pixel)液晶はカシオ様の「G-SHOCK」に採用され、搭載モデルを増やしていただいている。産業用はタッチパネル搭載品を提供しているが、顧客ニーズに応じて外付けだけでなくオンセルタイプも対応できる。車載用は業界トップクラスのシェアを持つ2~3インチのHUD用や電子ミラー用が主力で、異形状を実現できるなどカスタム対応力を武器にしている。近年進めてきた汎用ディスプレーから高付加価値品へのシフトは順調に進んでいる。
―― 事業の強みは。
池内 滋賀野洲工場のG3ラインを活かした小型高精度での製造だ。ジョブショップのラインにより、大手のパネルメーカーにはできない細かなニーズにコストパフォーマンス良く対応できる。またHUD用では高精度な製造工程を活かして液晶パネルの透過率を高め、バックライトの低消費電力化のニーズに応えている。液晶以外の成膜も可能であるという特徴を持ち、医療用センサーを展開している。
―― 開発の方向性は。
池内 HUDは2Dから3Dに移行する動きがあるなかで、既存技術をさらにブラッシュアップして対応していく。また、当社はディスプレーを視覚によるHMI(Human Machine Interface)と位置づけている。次は、当社独自の触覚によるHMI「HAPTIVITY」と組み合わせたソリューションを展開していきたい。
―― HAPTIVITYのモジュール化技術を発表した。
池内 21年に電子部品実装基板を3D射出成形でカプセル化する「IMSE」技術とHAPTIVITYを組み合わせた、「HAPTIVITY i」を発表した。非常に大きな反響を得ており、HMIソリューションを構成する技術として有望視している。液晶ディスプレーのほか、当社が持つ様々なデバイスと組み合わせたソリューション展開が可能だと期待している。様々な用途展開を期待しているが、まずは産業機器向けからスタートし、車載向けにも展開したい。
―― マイクロLEDの研究開発も行っている。
池内 非常に有望視している技術で、マーケティングや開発を通じてどう活用できるか検討している。非ディスプレー用途も含め検討を進める。
―― 今後の目標を。
池内 ソリューションセグメントのみならず、ほかのセグメントの部品や機器事業との横連携を加速していく。液晶を中心とした既存分野に新規領域を加えて成長を果たしたい。高付加価値シフトにより収益は確保してきた半面、売上規模は縮小が続いていたので、売上成長に転じることを目指す。
(聞き手・副編集長 中村剛/日下千穂記者)
本紙2022年6月9日号5面 掲載