商業施設新聞
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No.857

今春の商業施設で目立つ“食”の強化


高橋直也

2022/5/24

 今春、様々な商業施設がオープンし、すでにいくつかの施設は現地取材を行った。各デベロッパーは激変するライフスタイルに対応しており、開発には様々な工夫を凝らしている。その中で、目に付いたことの一つは「食品スーパーに幅を持たせること」か。

「恵比寿ガーデンプレイス」には「明治屋」と、ライフの旗艦店「セントラルスクエア」が出店している
「恵比寿ガーデンプレイス」には「明治屋」と、
ライフの旗艦店「セントラルスクエア」が
出店している
 例えば東京都渋谷区の「恵比寿ガーデンプレイス」の商業棟地下2階がリニューアルオープンしたが、ここには高級スーパーとして知られる「明治屋」と、ライフの旗艦店「セントラルスクエア」が出店している。業態だけでみると、スーパーが2店あり、競合ともなりそうだ。ただ明治屋は高級スーパーとして知られるように、上質な商品を販売する。一方、セントラルスクエアは上質な商品がありつつも、価格帯は広めで買いやすい値段の物もある。オープン時はナスがとてもお買い得だった。施設周辺は裕福な住人が多いことで知られ、上質な食品のニーズは強い。一方で、近隣住民にとっては高級なものだけでなく、幅広い価格帯の中から選べるのは大きなメリット。いくら恵比寿でもデイリーに使うならライフ(セントラルスクエア)の方が良いという人もいるだろう。

 東京都江東区の「KAMEIDO CLOCK(カメイドクロック)」は、ライフと複数の生鮮専門店や、総合グローサリーの「パントリー」を導入した。ちなみにライフは約850坪と広く、精肉、青果の専門店はそれぞれ60坪程度、鮮魚専門店は約100坪と一定の規模を確保している。そのため、上質な商品を欲しい人は専門店へ、デイリーなものが欲しい人はライフへ、と双方の客層を取り込むことができる。これにより「専門店品質の商品がないから別の施設へ行こう」、といった客の流出も防げる。

 商業施設はオーバーストアが進む。競争が激しくなり、集客は決して楽ではない。恵比寿、亀戸ともに「アトレ」があり、亀戸は隣駅に行けば錦糸町という一大商業集積地がある。こうした状況で、日々の生活に欠かせない「食」を充実させ、集客につなげる取り組みが増えているのだろう。

 今春開業した施設のうち、今後の試金石となりうる施設は「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」だろう。コト、体験型消費が加速する一環で公園+商業、広場+商業施設が拡大している。ららぽーと福岡はその中でも最たるものと言える。なにせパーク(広場)を9つも整備した。200mの陸上トラックを整備すると知った時には驚いた。商業施設はもはや買い物をするためだけの場所ではないのだ。「わざわざ施設に足を運んでもらう」ことが求められる時代、デベロッパーは様々な取り組みを進めている。今回、大掛かりにコト・体験を導入したが、個人的には成功すると思っている。そうなると、今後業界内に「あそこまでやるべきなんだ」という認識が広がる可能性もあるだろう。そうなれば、ららぽーと福岡を追随した施設も増えていく。ららぽーと福岡をきっかけにコト・体験が商業施設内でさらに拡充するかもしれない。

 オーバーストアが進む昨今、デベロッパーの努力・工夫が様々なところで見え、施設を取材する側としては面白い。ピンチをチャンスに、という言葉があるが、商業施設は進化している。
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