電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第480回

TSMC新工場進出で沸き返る熊本はTEL、ジャパンマテリアルなど投資ラッシュ


熊本大学のクリーンルーム、熊本県庁の新組織などアクティブな対応続く

2022/4/28

新開発棟の完成予想図(提供:東京エレクトロン)
新開発棟の完成予想図(提供:東京エレクトロン)
 TSMCの熊本工場進出は、やはりとんでもないインパクトを生み始めた。半導体製造装置で国内最大手、世界のトップの一角にある東京エレクトロンの九州合志事業所の開発棟建設がアナウンスされた。ジャパンマテリアルもまた熊本県大津町に土地と工場を購入するなどの積極投資の動きが出始めた。一方で、熊本大学は半導体関連企業と共同のクリーンルーム構築を計画しており、熊本県庁においても半導体産業の誘致強化に向けた新たな組織体制を考えはじめたのである。


 東京エレクトロンが世界に誇る黄金技は、何と言ってもクォーター&デベロッパーであり、ほぼ世界シェア独占という勢いである。これを量産するのが東京エレクトロン九州であるが、ここに来ての大きな動きは、何と開発棟を建設することを決めたことだ。投資額は約300億円であり、延べ2万4000m²の新棟を建設。近く着工し、2024年秋の竣工を予定している。

 このことにより、東京エレクトロン九州は、単なる量産工場ではなく、新たな開発も手がけることになるわけであり、このことの意味は大きい。やはりTSMCの熊本新工場進出が呼び込んだ新たな動きと言えるだろう。

 ジャパンマテリアルは、ガスや水回り配管の分野で定評のあるカンパニーであり、人材を提供できることでも優位性を持っている。キオクシアの主力工場である三重県四日市においては、大活躍しており、岩手県北上の新工場建設においても大きな貢献を果たすのだ。そして今回は、TSMCの熊本への企業誘致へ呼応する形で、熊本県大津町のTSMC新工場の近接に6万6500m²の土地と工場を購入した。投資額は12億円。TSMCが24年に稼働する半導体製造工場向けの配管加工を始めるが、稼働当初の人員は協力会社を含めて120人になる見通しだ。

 すでに既存の熊本県下の中小企業も続々とTSMC対応のために新工場建設を進めており、半導体装置を含めた関連産業における熊本での設備投資は、さらに活発化していく勢いなのである。

 さて、これに呼応して、熊本大学もまた、新たに設ける研究施設のために2.5億円の投資を決めた。この施設は、「半導体共創研究ハブ」と呼ばれるものであり、学内にある600m²の場所を改装し、クリーンルームを作るほか、研究に必要な新たな装置も調達する。

 大学の研究者や学生が、半導体関連企業の研究者らとともに研究するハブとなるわけであり、これは国内においても出色の動きであると言えるだろう。これをコアに、熊本大学は5年後をめどに、地元の半導体関連企業に100人以上の卒業生を送り込む考えなのである。

 熊本県庁もまた、積極的に動いている。県庁内の新たな組織として、①半導体立地支援室、②半導体産学官連携プロジェクト班を立ち上げたのである。つまりは、通常ベースの企業誘致の体制ではとても間に合わない、との判断がそこにあるのである。よく知られているように、熊本県は稀代の半導体立県であり、TSMC誘致に留まらず、さらなる半導体産業の集積を進めていく意向がはっきりと見え隠れすると言ってよいだろう。

 問題は、技術系の人材の争奪戦にあるだろう。何しろ半導体ブームでただですら半導体関連の人材は、設計にせよ、開発にせよ、製造にせよ、みな逼迫している。人材を手当てすることは誠に重要なことなのであるが、頭を抱えている人たちも多い。技術系人材を得意とするカンパニーの幹部は、苦笑いしながらこう語るのである。

 「TSMCとソニーグループの合弁会社が提示する理工系学部卒の月給は、地域平均よりも7万円以上高いのだ。これには参った。しかしながら、日本の半導体技術者の給与水準は国際的に低すぎることは事実である。TSMC熊本進出をきっかけにして、半導体エンジニアの給与水準が全国的に上がっていけば、非常によい人材が半導体業界に流れ込むことになる。その意味では歓迎すべきことなのだろう」。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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