車載向けコネクターを中心に躍進中のイリソ電子工業(株)は、中期経営計画を上方修正(2024年3月期売上高520億円)し、直近では秋田県横手市に新工場の建設を公表、また岩手県の金型メーカーであるエスジーディー(SGD)を完全子会社化するなど、攻勢を見せている。代表取締役社長就任から1年を迎えた鈴木仁氏に、現況、生産体制強化策など幅広くお聞きした。
―― 1年を振り返って。
鈴木 就任当初は当社ベトナム工場の約1カ月にわたるロックダウン影響の代替生産や在庫対応など諸施策に奔走し、その後は半導体不足による自動車減産、材料高騰、輸送リスクなど一難去ってまた一難の連続だった。そして今、今度は上海がコロナ影響によるロックダウンに見舞われている。中国(南通工場含む)は当社最大の生産拠点であり、中国国内向けの多くを担っている。長引けば業績影響が懸念される。また、当社コネクター製品生産の約8割は海外だ。そのため、円安は逆風になっている。こうして駆け抜けるように1年が経過した印象だ。
―― その意味でも、秋田新工場建設はBCPの観点でも布石になりそうです。
鈴木 当初は国内拠点強化策として茨城工場での増築を検討していたが、工場周辺は田園地帯であり、米作りも盛んな地域だけに新たに土地を取得することは困難だった。そこで立地条件やBCPなどを勘案し、日本海側の秋田県横手市に新棟建設を決断した。
―― 新工場の概要を。
鈴木 当社製品生産の最大拠点は中国・南通工場、次いで2番手がベトナム工場、そして今回新たに3番手となるのが秋田新工場である。規模感はベトナム工場と同等になる予定だ。現状では国内生産比率は15%程度だが、秋田新工場が本格稼働すれば中国、ベトナム、日本の生産がバランスするだろう。土地、建屋、設備を含めた投資額は35億円程度、稼働は25年からを予定しているが、早ければ24年から生産を開始したい。
従業員数は200人規模を想定している。日本人はものづくり力も高く優秀だ。スマートファクトリー化など生産効率化も加味すれば、既存のベトナム工場900人と同等の生産性を実現できると見ている。コロナ禍、足元の紛争リスクなど予期せぬ事態が突如起こり得ることを痛感した。国内でも生産体制を構築しておく必要がある。
―― 一方、欧米への生産体制強化策については。
鈴木 まず前提として、現在は前述のアジア拠点から欧米へ製品を輸出している。そのため当初、メキシコを拠点に欧米へ製品供給することを見込み、新工場用地を取得したが、トランプ政権誕生を機に、各国で地産地消の意識が高まるなど状勢は大きく変化した。そのため、一度ゼロベースに戻し、欧米のお客様にとって何が最適解なのかを1年くらいかけて再検討していく方針だ。
―― 当面は強気の投資が続きそうですね。
鈴木 こうした生産体制強化にはある程度の投資が伴うだろう。直近では新ERPシステムの入れ替え投資、BCP対応投資があるため、21年度は期初想定どおり前年から増額となりそうだ。新ERPシステムの稼働は23年半ばの予定のため、22年度も前年比増額を見通している。
―― 4月からSGDを完全子会社化されました。
鈴木 今後の当社コネクターの進化を見据えた場合、小型で精密な金型は必要不可欠だ。SGDはコネクターなどの射出成形金型や各種金型部品の製造に長けており、当社主力の基板対基板(BtoB)コネクター「Z-Move」も手がけていた。内製で金型も担えることはBCPの強化にもなり、SGDには技術改善など製造に集中していただけるメリットがある。4月1日より「有限会社イリソエンジニアリング」として稼働している。
―― 車載向けが好調です。
鈴木 EV/HEVをはじめとした次世代自動車向けやエンジン、モーター周りのパワートレイン系の引き合いが多い。振動に強いZ-Moveコネクターや、BMS接続用ワイヤーハーネスコネクター「13065シリーズ」が好調だ。また、車載カメラなどADASや各種多機能車載機器での高速伝送用では、25Gbps対応とこれまでにない可動量でのフローティング機能を両立させた「10143シリーズ」の採用が拡大している。先々のゾーンECUなどにおいても内部基板増加、それに伴うコネクター需要増と見ており、電動化、自動走行に向けた動きは当社にとって需要増につながる。
―― 30年3月期売上高1000億円へ追い風ですね。
鈴木 こうした車載分野に加え、ロボット分野へのロボット適合コネクター、5G分野への各種コネクターの受注も拡大基調にある。お客様のニーズに応えたこだわりのコネクター製品を提供し続けた先に、自然と目標が達成される経営を心がけていきたい。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2022年4月28日号1面 掲載