電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第479回

21年のアナログ半導体は前年比30%増の741億ドルで過去最高額


車載、SDGs、産業機器の進展が大きく影響し舞台の前面に出てくる!!

2022/4/22

 「半導体産業を語る場合に、何かと言えばDRAM、NANDフラッシュメモリーなどのメモリー半導体、さらにはスマホ向けのシステムLSI、そしてパソコン、ゲームやデータセンター向けのCPU、GPUなどのロジック半導体がひたすら話題になるのである。しかして、縁の下の力持ちとも言うべき存在がアナログ半導体であり、これまでは影の黒子的な役割と見られていたが、ここに来て舞台の前面に躍り出ようとしている」

 こう語るのは、いまや半導体アナリストで国内ナンバー1とも言われる南川明氏である。南川氏によれば、アナログ/ディスクリート半導体(アナログIC、センサー、アクチュエーター、光デバイス、パワーデバイスなどを含む)は全半導体の30%を占める分野であるが、ここに来ての成長率は目を見張るものがあるというのだ。

 21年のアナログIC市場は、前年に対して驚くなかれ、30%増の741億ドルを達成し、過去最高金額となったのだ。出荷個数についても、同22%増の2151億個であり、これまた過去最高を更新している。最も世界的な半導体不足が大きく影響し、アナログICについても平均販売価格が34セントであり、6%も上昇したことが大きい。

 オムディア社が発表している半導体メーカー売上高ランキング2021を見ても、うなずくところはある。もちろん、トップはインテルがサムスンを抑えて相変わらず世界チャンピオンの座を保持している。2位のサムスン、3位のSKハイニックス、5位のマイクロン、そして12位のキオクシアは、いずれもメモリーメーカーであり、伸び自体はもちろん高いものがある。


 世界ランキング4位のクアルコムは51%も伸びており、システムLSIの代表格であるが、6位のブロードコムは16.6%増、7位のエヌビディアは57.8%増、8位のメディアテックは56.7%増とこれまたすごい伸びを示している。AMDのインテル追い上げも急ピッチであり、実に67.7%も伸びている。

 しかしよく見なければいけないのは、この20年間にわたる半導体の歴史の中で、米国のテキサス・インスツルメンツがベスト10を外したことは一回もないということだ。同社はよくTIと略称で呼ばれることが多いが、1970年代から80年代はじめにあっては、圧倒的な半導体の世界チャンピオンであったことを知る人は、今は少なくなっている。

 現在のアナログICの王者であるTIの存在感は、この時代にあっても高いと言えるのだ。そして世界ランキング13位に位置しているSTマイクロも、アナログには強いことで定評がある。

 さらに特筆されなければいけないのは、「もうダメでしょう」「まったく期待できない」「M&Aばかりやっていて、売り上げがついてこない」と揶揄され続けたニッポンのルネサス エレクトロニクスが、世界ランキング15位に顔を出したことである。同社の伸びは前年比48.0%増と非常に高く、ついにほぼ1兆円の大台に乗せてきたと言えるだろう。

 IDT、インターシル、ダイアログとアナログの有力なICメーカーをたて続けに買収して、業績を安定させてきた。車載用マイコンではめっぽう強いルネサスは、アナログを強化することによって、車載分野はもとより、産業やインフラ、IoT分野でも事業を広げ、車載一辺倒からの脱却を図りつつあるのだ。

 「これまでの半導体の傾向は、何と言っても超微細加工プロセスの先端半導体に注目が集まってきた。しかして、SDGs革命でパワーデバイスが急増することはもう見えている。そしてエッジのデータセンターが拡大すれば、ここにもアナログICは非常に重要になる。何よりも、次世代自動車、次世代産業機器については、アナログ、パワー、オプト、センサーが非常に多く使われる。言い換えれば、レガシー半導体もまた重要、とも言えるのだ」(南川氏)

 2022年のアナログIC市場も12%増の832億ドル、出荷個数も同11%増の2387億個に拡大すると予測されている。引き続き堅調であり、またロングレンジで伸びていくアナログは、今後の半導体成長の原動力にもなっていくだろう。

 国内半導体企業で言えば、引き続きルネサスに期待が集まるが、アナログ半導体のもう一つの勢力として力を伸ばしてきたのが日清紡デバイスである。新日本無線を傘下に入れただけでなく、スマホのリチウムイオン電池保護ICやLDOレギュレーターで世界シェアの3分の1を持つリコー電子デバイスも、日清紡グループに入っている。他にも、ミネベアミツミがエイブリック買収を進め、さらに他のアナログメーカーも狙っているという。アナログ半導体における日本企業の再編劇は今後も加速することは必至であろう。

 SDGs革命、メタバース革命、IoT革命という新しい時代の始まりは、どうしても先端デバイスに目がいくのであるが、いぶし銀のように光るアナログ半導体メーカーの存在感を決して忘れてはいけないのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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