(株)ニチコンは、1950年の創立からコンデンサーの開発・製造・販売を手がけ、エネルギー・環境・医療機器分野、自動車・車両関連、白物家電・産業用インバーター、情報通信の主要市場で積極的な事業を展開している。2010年には、「NECST(Nichicon Energy Control System Technology)事業」をプロジェクトから立ち上げ、家庭用蓄電システムやV2Hシステム、電気自動車(EV)用急速充電器など、独自の新製品の開発により、カーボンニュートラル(CN)へ向けた貢献、ビジネスの拡大を推進している。
同社NECST事業本部 EV機器グループ ビジネスグループ長の関宏氏に、急速充電器事業のビジネス概況、今後の成長戦略などについて話を伺った。
―― まず、充電器事業の概況について。
関 当社は、09年よりEV・PHV用急速充電器分野に参入し、10kWや25kW、35kW、50kWの急速充電器をラインアップ。一般公開されていない場所を含めて、販売設置台数は数千基(口数)にのぼっている。
設置場所の主な内訳としては、自動車販売店が約4分の1、そのほか道の駅(17%)や民間企業(17%)、商業施設(15%)、公共施設(8%)など幅広い場所に設置いただいている。
当社の急速充電器は、小型・省スペースが大きな特徴となっている。商業施設などでは緑化面積を極力減らしたくないという要望が非常に強く、そのような事業者から特に当社製品の引き合いを多くいただいている。
―― クルマの電動化に向けた機運が大きく高まっています。
関 トヨタをはじめ、国内OEM各社がCNの実現に向けて電動化戦略を相次いで打ち出すとともに、政府も30年までに急速充電器の設置台数を3万基に増やす目標を明らかしている。
現在、急速充電器の累計設置台数は約8000基(口数)だが、今後は年間で3000~4000基(同)の規模で、設置台数が拡大していくと期待される。当社では、そのうち25~30%のシェアをしっかり獲得できるように取り組んでいく。
―― 貴社の製品戦略について。21年にマルチディスペンサーの急速充電器が大黒PAに設置されました。
関 東京電力ホールディングス、e-Mobility Powerと共同開発した製品が、200kW出力マルチ急速充電器(20年度グッドデザイン賞受賞)となる。1つの充電ケーブルで最大90kWの出力で充電できるとともに、独自のアルゴリズムの採用により、200kWの出力を最適に制御し6台のEVを同時に充電することができる。1カ所に複数台を設置したいという要望も多くいただいており、設置コストの削減、充電待ち時間の解消に寄与するものと期待している。
―― 新製品の開発などは。
関 22年度中に大出力のデュアルコネクターと、50kWのリニューアル版の販売開始を予定している。
大出力デュアルコネクターは、クラス最小のフットプリントを実現し、当社製品の特徴である小型・軽量化をさらに進化させた充電器となる。ユニバーサルデザインを採用するとともに、大型ディスプレーによるデジタルサイネージのニーズにも対応する(オプション)。また、OCPP通信による監視機能や、e-Mobility Power社の新たな課金機能にも対応することができる。
一方、50kWのリニューアル版も、競合他社の同等出力品に比べて最小の着床面積を実現するとともに、シンプルなデザインでメンテナンス性にも配慮。また、オプションとはなるがケーブルの懸架や、サイネージ用のディスプレー搭載にも対応する。
―― 貴社ではV2Hシステムを世界で初めて市場投入されています。
関 東日本大震災の際、EVを非常用電源として活用できないか、というご要望が経済産業省からあったことをきっかけに開発を進め、12年に世界に先駆けてV2Hシステムを市場投入した。19年6月にはバージョンアップした現行モデルを開発・投入。電力系統との疑似連携によるスムーズな運転、太陽光発電の有効利用を可能としている。クルマを暮らしの電源の1つとして柔軟に活用できるシステムであり、販売設置台数は大きく増加している。
(聞き手・清水聡記者)
本紙2022年4月21日号2面 掲載