電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第446回

日本初上陸、定位放射線治療装置ZAP-X


3月に1~2例目の治療に成功

2022/4/1

 2021年12月1日にオープンした医療法人社団 脳神経脊髄脊椎外科サービス宇都宮脳脊髄センター・シンフォニー病院(栃木県宇都宮市宮みらい1-35、Tel.028-680-5115)は、3月16日に国内1号機となる定位放射線治療装置ZAP-XによるZAP1例目、3月22日に2例目の治療が無事に成功した。

「開頭せずにがん治療」

シンフォニー病院 ZAP-X
シンフォニー病院 ZAP-X
 同病院の「開頭せずになおす」ZAP-Xは、脳、頭頚部専用の病変に用いる新しい「定位放射線治療」(SRS)装置で、放射線を脳の病変の形どおりに正確に照射して治療する器械。脳腫瘍、がんの脳転移などが保険対象となっている。

 「放射線外科治療」とは大量の放射線を照射することで、標的病変の放射線に対する感受性にかかわりなく治療するものである。このために細胞分裂の多い悪性腫瘍だけでなく、良性腫瘍や血管の病変にも効果を発揮する。

 しかし周辺の組織への影響を避けるために、正確に位置と範囲を制御する必要があり、そのために「定位的」放射線照射が必要となる。腫瘍、血管奇形などの深部の脳の病変を開頭しないで「切らずに」治療でき、ことに、乳がんや肺がん、消化管のがんの脳転移は、がんの生存期間が長くなったために治療の必要も増え、複数の転移がある場合はとくに脳を壊さないですむピンポイント照射は大きな意義があるとしている。

サブミリレベルで位置補正/線量モニターで安全確保

 また、ZAP-Xが従来あるガンマナイフ(第1世代)、サイバーナイフ(第2世代)の定位放射線機器と比較した革新的な特長として、①非侵襲的なソフトマスクで頭と顔面を覆って固定すること(ガンマナイフのように頭蓋へのピン刺入、フレーム固定などを要さずに、精度を維持する)、②治療中の位置補正装置があること(治療中の画像誘導〈Image Guided System〉により、からだの位置のズレをリアルタイムで計測、補正する。これによりソフトマスク固定にもかかわらずサブミリレベル〈誤差1mm以下〉のターゲット精度を実現している)、③分割照射ができること(ずれ補正によって、一回照射だけでなく、数回、数十回にわたって反復して同じ場所に照射治療〈分割照射〉ができる。これにより大きな腫瘍などを治療することが可能になった。従来のフレーム・ピン刺入固定のガンマナイフにない大きなメリット)、④リアルタイム透過線量モニター(からだを透過するビームをリアルタイムに、装置内の線量計がモニターし計画との差が発生するとただちに停止、安全性を確保する)、⑤単純な機械的構成(動作の機構はアキシャル軸〈主軸〉とオブリーク〈傾斜〉軸、2軸の回転のみ〈第2世代のサイバーナイフは6軸〉、単純で精度が保たれやすい構造)、⑥X線線源はリニアック(直線加速器)(従来のコバルト60の使用とそれに伴う放射性同位元素の取り扱いの煩わしさを排除、また、線源の減衰がなく、治療時間が延長することがない)を挙げている。

セルフシールド機能で費用逓減と設置容易に

 さらに、装置そのものに独自のセルフシールド機能を備え、一般的に費用のかかる大がかりな放射線遮蔽が不要で、クリニックや外来治療センターを含め設置場所の選択肢が大幅に広がった。

 ZAP-Xを開発・製造しているのは、ZAP サージカルシステムズ社(米カリフォルニア州シリコンバレー)で、2014年に設立された。CEOは、スタンフォード大学の脳神経外科および放射線腫瘍学の名誉教授であるジョンR.アドラー医学博士。ZAP-Xは、17年9月にFDAにより承認された。アドラー博士は、また、サイバーナイフの発明者であり、最先端放射線治療装置のアキュレイ社の創設者でもある。

世界で8台が稼働中

 ZAP サージカルシステムズ社は、日本おいては、20年10月から㈱千代田テクノルおよびエム・シー・メディカル㈱との販売パートナーシップを締結し、技術サポートや関連サービスにおいて千代田テクノルとのパートナーシップも締結した。欧米や中国などで導入されており、3月24日時点で、日本の1台を含め8台が稼働している。

日本の販社は千代田テクノルとMCメディカル

 千代田テクノルでは、国内での治療が成功したことで、今後、学会での発表が可能となり、さらに関心が高まると期待している。価格は数億円であるが、従来の放射線治療装置と比べ、地下など分厚いコンクリート壁の築造やX線遮へいシールドが不要になることから、その費用は引き下げることができ、また、これまで設置をあきらめていた施設への設置も可能となり、新たな市場開拓につながるとしている。

 さらに、シンフォニー病院では、頭部以外の下垂体腫瘍、動静脈奇形、三叉神経痛にも有効としているが、千代田テクノルでは、これらは保険適用されておらず、自由診療となり、また、現在の装置のポート、照射器などの形状が頭部、頭頚部に合わせてつくられていることから、今の装置はほぼ頭部、頭頚部専用である。しかし、この優れた放射線治療装置は、頭部、頭頚部以外の部位にも適用できるなら、各部位をターゲットとする装置が実現できることになり、多くのがん患者へより低侵襲治療の提供が可能となる。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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