熊本県は九州シリコンアイランドの中核をなす存在である。ここに来て、ファンドリー世界最大手のTSMCが熊本に進出することになり、県下の半導体関連の中小企業はまさに超元気印となっている。
TSMC熊本は、最近になり、デンソーの出資も出てきたことから、投資額は当初の8000億円から約1兆円に膨らんでいる。熊本に作られる新工場としては、過去最大スケールなのであるからして、ただ事ではないのだ。
池松機工は、熊本県大津町に本社を構えるカンパニーであり、創業から38年の歩みを続けてきた。精密切削などの複合加工、5軸加工、大型5面加工などにはめっぽう強い。最近になっては、半導体関連の仕事が急増しており、これに備えて2019年3月に新工場を稼働させており、またさらなる拡張も検討されている。
「半導体関連などの複雑形状パーツについては、5軸加工が必要であり、大型で高額なオークマの5軸マシニングセンターを入れるなどして対応している。多面パレットチェンジャーで長時間の自動運転が可能だ。パレット搬送システム、ミガキロボットなども取り入れている。モニタリングも重要であり、設備の見える化、つまりはDXに今後も設備投資を考えたい」
池松康博氏は中小企業ネットワークのITプラザ協議会会長の任にもある
こう語るのは、池松機工にあって、代表取締役の任にある池松康博氏である。池松氏によれば、こうした設備増強に加えて、環境経営が求められており、SDGsの取り組みにも全力を挙げていく構えだ。また、売り上げも中期計画として30億円突破を狙っているという。ちなみに池松氏は、熊本を中心に九州一円に広がる中小企業ネットワークともいうべきITプラザ協議会の会長の任にあるのだ。
OGIC(オジックテクノロジーズ)もまた、得意技の「ケミカル技術」を武器にして、半導体分野を徹底強化している。この会社も76年目を迎えているが、売り上げは急拡大しているのだ。とりわけ強いのはパワーデバイス関連であり、次世代SiCパワーデバイスに対応した無電解Agめっきは、OGICが確立した技術としては出色のものなのである。
「IGBTモジュールなど、パワーデバイスのセラミック基板めっきは、これまでにも多くの評価をいただいた。しかして、2019年からはパワー半導体ウエハーの製造工程のめっきによる電極形成に踏み込んでいる。つまりは、ウエハープロセスの分野を拡大している。これに加えて、半導体製造装置部品のめっきもやっている」
こう語るのは、OGICにあって、代表取締役の金森秀一氏である。金森氏は、熊本県工業連合の会長の任にもあった人であり、中小企業の人たちにも人望があるのだ。
金森氏によれば、OGICも新工場建設など設備拡張に積極的に取り組んでいるが、熊本県下の中小企業は数十カ所で新工場計画が急ピッチで進んでいるという。まさにTSMC効果なのである。
TSMCは、茨城県つくばにも研究開発センターを設置してR&D活動を開始しており、日本へののめり込みはますます強くなっていくだろう。言うまでもなく、台湾は超親日であり、先ごろの調査においても「最も大好きな国はニッポン」が全体の60%を占めたほどなのであるからして、台湾企業と日本企業の結びつきはますます強くなっていくに違いない。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。