素材型デバイス創造企業として八十余年の歴史を持ち、顧客からの信頼も厚い(株)トーキン。2017年に米KEMETと完全統合、20年6月にはKEMETが台湾ヤゲオの完全子会社となり、素材型という同社モノづくりの原点を継承しながら、グローバル企業として挑戦を続けている。同社を率いる代表取締役執行役員社長の片倉文博氏に、現況や今後の展望などをお聞きした。
―― 市況感および業績は。
片倉 当社の二本柱であるキャパシタもMSA(マグネティック・センサ&アクチュエーター)もほぼ期初想定どおりに堅調に推移し、21年度(21年12月期)は売上高が前年比120%を超え、営業利益率も20%台前半を達成できた。エアコン向けも先行受注をいただくなど、産機向け、民生向けとも強い需要である。ただし、好調なACラインフィルターの主力拠点であるベトナム工場が新型コロナの影響で、21年7月半ばから10月末ごろまで現地従業員が通勤困難な事態となった。この影響から、生産リードタイムが現在35週間程度(2月半ば時点)まで延びており、受注残が積み上がっている。
―― 増強など対策は。
片倉 ACラインフィルターでは、ベトナム工場の生産能力を3月中に1.5倍に引き上げる。また、車載の電動コンプレッサーやオンボードチャージャー、EPS(電動パワーステアリング)向けに需要が強い車載向けACラインフィルターの生産能力は、今後5年間で現在の2.5倍に増強したい。BCPの観点から、アモイ工場に自動巻線機新設を検討中のほか、一度はベトナムに集約した設備の一部を再度中国に移設することもあわせて検討している。
―― 投資も増額ですね。
片倉 MSAとしての22年投資額は、前年比倍増を見込む。前述の同フィルターに加えて、EVなどの充電システムに必須な直流漏電電流センサーも好調なため、ベトナムに既設の縦型タイプ用のラインに加え、横型タイプ用も立ち上げ中であり、近く生産を開始する。同様にアモイにも縦型、横型のラインの増設を22年内に予定している。
―― 同フィルターや電流センサー好調の背景を。
片倉 自動車の電動化で電子機器の搭載数が増え、ノイズを除去するACラインフィルターやノイズ検出用電流センサーの需要が必然的に高まっている。当然、新規参入も増えているが、半導体不足などで需給逼迫が続いている。当社は長期契約などにより問題なく部材を調達できていることも強みになっている。
―― 新製品開発の進捗を。
片倉 白石事業所で、車載向け昇圧用インダクターの新規モデルを開発中であり、23年4月の量産開始を目指している。将来、EVから家電への充電など新規需要での活用を見込んでいる。また、欧州顧客を中心に受注が好調な直流漏電電流センサー「FGシリーズ」は既存の縦型タイプに次いで、22年3月に横型タイプを上市予定だ。
―― ヤゲオグループとしての活動について。
片倉 トーキンのブランド力、素材からの技術力が重視されている。ヤゲオも従来の規模を追うビジネスから産業機器向けなど高付加価値品強化の方向性にあり、緻密なカスタム対応や品質力が問われる日本のお客様向けに当社がサポートを担当するなどシナジー効果を模索中でもある。ヤゲオが買収したチリシンとパルスを統合したマグネティクスPBG(プロダクトビジネスグループ)が22年1月から始動しており、材料、工法など当社との相乗効果について協議も開始した。
―― 22年業績見通しおよび今後の展望を。
片倉 22年も引き続き堅調に推移すると見ている。そのため、売上高は前年比10%程度の成長を予想する。今後に向け、国内生産も含めて、生産技術力、設備の設計技術力などで製品の付加価値をどう上げていくかを真剣に考えている。その一環で従業員の個性を尊重した「マイスター制度」を検討中だ。高い技術力を持つ人材、秀でた人材に見合う報酬を提供できる、社員の個性を活かす経営の実践を目指す。「多様性は企業成長の原動力」である。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2022年3月17日号1面 掲載