若い女の子たちが大好きなスマホも
実装技術の進展に支えられている
「広辞苑で『実装』を引けば、装置や機器の構成部品を実際に取り付けること、と説明されている。狭義における実装を考えて、実装+部品でウェブ検索すれば1300万件がヒットする。ところがこれを実装+システムとすると、それを超える1500万件がヒットするのだ。すなわち実装は単に部品実装ではなく、システム実体化そのものを意味するようになってきた」
ポツポツとこう語るのは、エレクトロニクス実装学会の会長である東京大学教授の須賀唯知氏である。須賀氏はナノレベルでの接合と分離を唱えたインターコネクションの世界で著名な教授である。須賀氏によれば、実装という言葉が広辞苑に初めて収録されたのは、1998年のことであるという。
それから15年が経ち、実装(JISSO)は今や世界的な共通言語となってしまった。エレクトロニクス実装学会の発足当初には、SMT実装が日本の電子産業界の牽引役であったのにもかかわらず、業界以外では実装という言葉を知る者がほとんどいないことを思えば、隔世の感があるという。
今日において驚くべきことは、実装+ゲームと検索しても1000万件以上のヒットがあることなのだ。ゲームの世界ではリアル音声などのフィーチャーをゲームキャラクターに実装する、というような使い方が当たり前のようにされているようだ。
3次元実装はすでに実用化レベルに入っており、エルピーダメモリにおいてはDRAM8枚を積み上げた8G DDR3が世に出ている。ザイリンクスなどではTSVでインターポーザー4枚を積み上げ、3次元のFPGAを実現している。
クアルコムにおいてはTSVを積極的に採用し、実装面積を2分の1にしている。また、マイクロン、インテル、IBM、サムスンなどはTSVのメモリーにすることで、10分の1の低消費電力を狙うという。高速データ転送、高速画像処理、低消費電力を特徴にする3次元実装はまさに実用化レベルに突入したのだ。
「3次元実装の次に来る4次元実装は、時間軸を考慮したモノづくりを志向するものだ。つまりは、設計された必要機能を具現化するためにハード・ソフト両者を含む構成要素を空間的、機能的、時間的に最適配置・接続することにより、システムを実体化していく。実装の世界も、ついにこのレベルの世界に入っていく時を迎えたのだ」(須賀教授)
実装といえばこれまでは、エレクトロニクス実装をほとんど意味したわけだ。しかしながら、今後はエレクトロニクスを根幹としつつも、再生可能エネルギー、医療産業、農工連携などの新しい分野でのモノづくりにおける新たな「実装の定義づけ」がされるときがやってきた。将来がどうあっても、必要な機能を具現化するために構成要素を最適配置・接続し、システムを実体化していくという方向性に変わりはないだろう。
ところで、須賀教授の十八番とも言うべき理論は、「常温接合の軌跡と未来」ということにある。固体清浄表面の活性を利用し、同種・異種の金属・半導体・絶縁体の常温接合を図るというものだ。このことによって省エネ化が図れ、かつドライプロセスでもあるわけだから省資源化も図れるのだ。もう少し分かりやすくいえば、はんだ接合は加熱して溶融して付けるわけだが、常温接合は接合前に酸化膜を除去して溶かさずに付ける、ということを意味する。
ちなみに、エレクトロニクス実装学会は会員数が2600人であり、このうち実に8割が企業の所属となっている。大学・研究機関の会員は、1割程度しかいないのだ。学会でありながら、まさに産業界の拠り所となっているすばらしい団体なのだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。