コロナ禍ながら巣ごもり需要などが奏功し、2021年の世界電子部品市場は前年比2桁成長が見込まれる。電子部品大手のアルプスアルパイン(株)の電子部品事業も21年度上期(4~9月期)は前年同期比25%増収、前年同期の損失から黒字転換を果たした。21年度通期売上高は前年度比8%増の7753億円を見据える。同社は旧アルプス電気と旧アルパインが経営統合してから22年で3年目を迎える。縦方向に要素技術の深耕、横方向にシステム技術の広範囲化を意味する「T型」企業として価値創造を追究し続けている。代表取締役社長執行役員の栗山年弘氏に、21年の総括や市況感、22年の展望、業界へのメッセージを伺った。
―― 21年を振り返って。
栗山 車載向けが全社売上高の3分の2を占める当社にとっては、業績数値とは裏腹に、同じコロナ禍でも20年より21年の方が苦しかった。自動車の販売台数もコロナ前の19年9000万台から20年は7700万台、21年は8500万台が見込まれていたが7700万台と横ばい着地が見込まれている(21年12月半ば時点)。21年夏までは半導体や原材料不足、直近は物流が足かせとなるなど外部要因が大きく影響した。この流れは22年上期まで続くと見るが、21年9~10月をボトムに徐々に緩和に向かうと見込む。22年は自動車販売台数8500万台程度への回復を期待する。一方、電子部品は悪くない一年だった。
―― 電子部品の見方についてもう少し詳しく。
栗山 JEITA(電子情報技術産業協会)公表の速報値によれば、21年の世界電子部品生産額は前年比17%成長(円換算)、22年は同4%成長(同)が見込まれている。当社も22年3月期の電子部品売上高予想では前年度比15%増の4546億円、営業利益は同2倍の240億円を見込んでいる。車載向けスイッチなどは21年度上期受注が増加となり、顧客側での在庫確保の動きが見られた。
また、新型スマートフォン(スマホ)向け高性能カメラ用アクチュエーターやゲーム機向けなど、巣ごもり需要を含む民生向けなどが堅調に推移したことが追い風となった。ただし、従来であればスマホ向け需要のピークは秋口だが、半導体・電子部品不足の影響から年末年明けへと生産のピークがシフトしている。
一方で、21年10月以降から電子部品の在庫滞留が物流子会社などで見られており、調整局面に入ってきた可能性がある。巣ごもり需要も22年は一服するだろう。とはいえ、全体的には22年は車載向け、民生向けともに需給逼迫も改善して明るいと見る。
―― R&D新棟建設など研究開発も強化します。
栗山 古川開発センター内にR&D新棟(宮城県大崎市)建設を計画しており、22年1月に着工し、23年3月の竣工予定だ。また、21年春には仙台駅直結のロケーションに「仙台ソフトウエア開発センター」を開所した。スマホ向けは5年後、車載向けは6~7年後に向けた開発案件がすでに始動しており、これらの開発拠点では30年以降を見据えていく。ハードウエアとソフトウエアの融合は必須の方向性であり、新幹線直結の地の利を生かし、優秀な若手エンジニア獲得も積極的に進めていく。
―― 生産能力増強については。
栗山 2年ほど前に新棟を建設したマザー工場の古川第2工場は、順次ラインを増強している。現在は3分の2ほどが埋まり、スマホでのカメラ複眼化、高機能化に伴い、スマホ向けカメラアクチュエーターを中心にフル稼働の状態だ。そのため、この古川第2工場、および中国工場で生産ライン本数を倍近くに増やし、顧客需要に対応している。5年くらいのスパンで古川第2工場を埋めていく予定だ。前述の研究開発施設なども含め、21年度の電子部品向け投資額は400億円程度を予定している。
―― ハードとソフトの融合における成果を。
栗山 旧アルパインのカーナビをはじめ周辺機器での実績、旧アルプスのセンサーをはじめとした電子部品の強みを活かした車載向けHMI(Human Machine Interface)製品領域「デジタルキャビン」は事例の1つだ。加えて、車載安全系に向けたミリ波センサー、EV用インバーター向け電流センサー、電動二輪車(エンジン駆動含む)向け燃料制御用センサーなどの開発を推進中で、GMR(Giant Magneto Resistance)技術で提案している。いずれもニッチ分野をターゲットにしている。
―― 車載向けに開発中のミリ波センサーの特徴は。
栗山 60GHzミリ波センサーは、自動車における乗員の状態検知向けなどを想定している。欧州ではEuro-NCAP(European New Car Assessment Programme)で子供の置き去り検知機器の設置が要件項目に加わってきており、自動車メーカー各社で搭載に向けた動きが始まっている。カメラでは死角となる毛布の中の子供の存在なども検知可能だ。また、悪天候時でも誤認識・誤動作しないため、車のドア開閉時用の静電技術によるキックセンサーの代替としても有望視される。
―― 電流センサーと燃料制御用センサーについて。
栗山 EV用インバーターには電流1000A、400V~800V級の高電圧が瞬間的に流れる。人の命に直結する電動車ではこうした大電流・高電圧に対し、高精度・高耐久性の電流センサーを要する。層の数分の電流センサーを要するため、3層インバーターであれば1台に電流センサー3個が搭載される。今後EVは急速に拡大すると見ており、電流センサーで2桁成長を見込む。一方、燃料制御用センサーは、ASEANなどで伸長中の電動二輪車で、効率よく電子制御することを目的とした省エネ製品だ。
―― M&Aの考え方は。
栗山 自社の枠だけにとどまらず、協業を積極的に進めている。例えば、異業種のハンドルメーカー、シートメーカーと、制御用ECUではメーターメーカーなどと、大手ティア1企業では手が回らない領域での協業を遂行中である。その他、IDEC、東海理化など各社との協業案件もすでに公表済みだ。柔軟に事業展開していく。
―― 22年に向けた新たな取り組みなど。
栗山 この1年くらいでソリューションビジネスプロジェクトを立ち上げた。モノの販売ではなく、企業内ベンチャーでモノ+ソリューションを行う事業を5~10年後の柱にしたい。現場で課題を解決するソリューションをIoTの中で推進し始めている。クラウドでデータ解析して、リカーリングまでを含有する事業モデルであり、これまでのやり方とは大きく変わる。バリュー(価値)を販売することで、利益率重視へと移行する。モノからソリューションへ、という意識改革も必要になってくる。
―― ITC101もその方向性を示唆しています。
栗山 当社の目指す姿として、革新的T型企業で連結営業利益率10%、売上高1兆円を中長期の達成目標に掲げたのがITC101だ。10%を1兆円よりも前に位置づけたことに当社の意志を反映した。22年4月から第2次中期経営計画がスタートする。社内コスト改革も順調に進んでおり、サプライチェーンなど外部要因が正常化し、自動車販売もコロナ前の年間9000万台に近づいていけば、収益拡大が見込める。また、車載向けを中心に、欧米での現地生産を加速する。
―― 最後に業界へのメッセージを。
栗山 コロナ禍となった2年間で、物流遅延・高騰、原材料費高騰、それらに端を発する半導体不足など予期せぬ要因により、当社も含め電子デバイス各社では製品製造原価高が悩みどころとなった。各社各様に諸事情があると想像するが、22年は供給側も購買側も皆が元気になれるよう、業界全体で健全な成長を目指し、日本勢一丸で躍進していければ幸いである。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳/高澤里美記者)
本紙2022年1月13日号1面 掲載