電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第434回

シャープディスプレイテクノロジーの戦略


液晶技術を深耕し勝負、有機ELは先端向けに注力

2022/1/7

21年度上半期の売上高は4367億円に

 近年、スマートフォン市場において有機EL(OLED)ディスプレーの拡大が著しく、またタブレットやノートPC、テレビ市場においてもOLEDの採用が進められている中で、シャープディスプレイテクノロジー(SDTC)は液晶技術を深耕して事業展開する方針を明確にしている。SDTCは、2020年10月にシャープからディスプレイデバイス事業が分社化し設立された。

 シャープの液晶ディスプレー(LCD)は、1973年に初めて液晶ディスプレーを搭載した電卓に始まる。04年には当時世界最大となる1500×1800mmの大型マザーガラスを採用した亀山工場を稼働した。12年には、世界初のIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)をバックプレーン(駆動回路)に用いた液晶ディスプレーの量産を開始している。

 ディスプレイ事業の20年度の売上高(同年10月に分社化)は、前年度を上回る8127億円となり、一部車載でコロナ禍の影響を受けつつも、PC、VR分野が拡大してこれをカバーした。21年度は20年度をさらに上回る見通しで、上半期の実績は4367億円となった。

 同社は分社化前の18年度から、(1)第5世代通信(5G)の普及・AIの進化に対応する、(2)8K技術をVRにも展開する、(3)車載/ハイエンドPCビジネスを拡大する、(4)OLEDで薄型/フレキシブルを実現、という事業方針を打ち出している。

 少しわかりにくいが、(1)においてなぜディスプレーが必要とされるかというと、(A)5Gの普及やAIの進化により、コネクテッド/安心安全に適した車載ディスプレーやUI(ユーザーインターフェース)が求められるようになること、(B)ゲーミングやオンライン会議などでリアルに表示されるディスプレーが必要になること、(C)大容量コンテンツを表示できるVRやリアルアイムに情報表示するARの普及が進むこと、(D)畳んで運ぶ/運動中も身に着けられるなど可搬性に優れたディスプレーが価値を持つようになる、と見通すからだ。そしてこれらは、アフターコロナの社会においても変わらず、むしろ5G、AI時代への移行が加速していることなどで、情報表示やコミュニケーションのためにディスプレーの重要性がより一層増した、と見定めている。

LCDを主力にした事業戦略を明確に

 これらの市場背景から、SDTCではLCDの市場優位性が高いと判断し、開発に注力して製品展開を図ることを明確にしている。近年、OLEDは急伸しているものの、すべての製品カテゴリーにおいてLCDからOLEDへ置き換えられるわけではないため、アプリケーションごとにディスプレー戦略を変えて対応していく。

 LCDは、スマホにおいては大手特定顧客向けに特化して展開する。車載ディスプレーにおいては、電気自動車(EV)により、ディスプレーの大画面化・マルチ化が進展して新しい技術が必須となることから、重点的に注力していく。具体的には、ディスプレー面積の拡大、ローパワー化、高輝度化や、安全のための視野角制御などのプライバシー技術を深耕していく。ここは、光学的な技術を駆使する必要があるため、OLEDよりもLCDが向く分野になるという。

ミニLEDバックライト搭載の新製品を発表するなどLCD展開に意欲
ミニLEDバックライト搭載の新製品を発表
するなどLCD展開に意欲
 このほか、高精細化が急伸するVR向けでも、LCDで注力していく。VRは、メタバースの台頭により高解像度化が加速し、OLEDには難しい領域になると予測。現在は大手顧客に超高精細LCDを提案中で、生産能力を増強してシェア拡大を図る。20年に800ppiのLCDを開発して市場展開しており、現在は次世代機として新開発のバックプレーン「TOPS」を採用した1200ppi製品を開発し、顧客提案に着手している。

OLEDは自社スマホ、フレキシブル・フォルダブルで注力

 一方でOLEDは、フレキシブル・フォルダブルといった、LCDには難しく、OLEDならではの特徴が活かせる分野に特化して注力していく方針だ。

 OLEDの製造は、G4.5サイズのマザーガラスで生産する三重事業所(三重県多気市)でバックプレーンの製造を、堺事業所(大阪府堺市)でパネル化を手がけるが、現状では自社スマホブランドのAQUOSフォン向けのみに展開している。今後の展開としては、前述のとおり、フレキシブル・フォルダブル向けの開発に注力し、PC/タブレット向けを含めて、コンパクト化ニーズがある中型サイズまでを見据えて、製品展開していく方針だ。

新開発のTOPS、量子ドットディスプレー

 新開発したTOPS(トップス、Top-gate Oxide and Poly-Silicon)は、IGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)とLTPS(低温ポリシリコン)を用いた、ハイブリッドバックプレーンだ。IGZOのオフ電流が低いこと、LTPSのオン電流が高いというそれぞれの特徴を活かした「良いとこ取り」のバックプレーンで、自社スマホのAQUOS R6、Sence6に搭載している。

 また、次世代ディスプレーとして、量子ドット(QD)を発光素子に用いた自発光×無機材料ディスプレーの「nanoLED」を開発中だ。カドミウムフリーのQDを用いた6型フルカラーディスプレーを世界で初めて作成し、学会発表に至っている。フォトリソ工程で生産可能で、高輝度、高精細といったLCDの特徴が発揮でき、既存設備を活用できるため、低コスト化と早期工場展開が可能だ。開発動向については今後発表していくとしており、同技術の進展と製品化を楽しみに待ちたい。

電子デバイス産業新聞 編集部 澤登美英子記者

サイト内検索