2021年の半導体業界はまさにTSMCを中心に動いた一年でもあった。半導体供給不足の問題が浮上した際には、同社の存在感が大きく浮き彫りになり、そして世界各国の半導体産業支援策ではTSMCの工場誘致がトッププライオリティーに位置づけられた。22年も同社を中心に半導体業界は回っていきそうだ。日本法人の代表取締役社長を務める小野寺誠氏に21年の振り返りと総括をしてもらった。
―― 21年は貴社にとって、非常に目まぐるしい一年だったと思います。
小野寺 当社が業界から、そして社会から必要とされていることを強く認識できた一年だったと思う。5GやAIのメガトレンドに加えパンデミックやデジタル化の加速により半導体需要が拡大し、生産キャパシティーに対するニーズの高まりを感じ、またファンドリービジネスがしっかりと定着していることも実感できた。
当社の経営ビジョンは昔から変わらず、「長期にわたり必要とされるテクノロジーとキャパシティーを顧客に提供し、信頼される会社になる」ことだ。このビジョンに基づき、必要なキャパを提供するため積極的に投資を行ってきた。
―― そういった意味でも熊本の新工場も非常に驚きでした。
小野寺 一部では実現不可能とも言われていたが、「噛み合わないと思っていたものが一気に噛み合った」というのが私の率直な感想だ。日本国内に工場を持つアイデア自体は前からあったのは事実だが、様々な制約やハードルがあった。しかし、半導体に対する重要性が一気に高まり、また経済産業省からのバックアップもあり、ハードルが一気に下がり、今回の発表に至った。
―― 近年は貴社の海外投資が目立っています。
小野寺 台湾以外の海外工場は米国、中国、シンガポールにあり、日本は4カ国目となる。22/28nmのようなレガシーノードで始まる新規投資で建設することは異例で、300mmラインをジョイントベンチャー(ソニーが少額出資)として運営することも初めての試みだ。熊本新工場だけでなく、日本への投資案件は近年増えており、東京大学との協業やみなとみらい地区でのデザインセンター開設、そしてつくばでの先端パッケージ開発の拠点設立などがあり、開発・生産を行う重要地域としての色合いも強まっている。
―― 22/28nm世代は競合企業も増強しており、競争が激しそうです。
小野寺 当社が増強する22v28nmは付加価値の高いHKMG(High-K/Metal Gate)が主体であり、競争力は非常に高い。他社が増強していることも承知しているが、業界全体で過剰投資という認識はない。
―― 足元の稼働状況を教えて下さい。
小野寺 引き続きフル生産の状況が続いており、最先端のN5世代だけでなく、40/65/90nmのようなレガシーノードも目一杯の状況だ。これら需要に対応すべく、極めて高い水準の設備投資を継続しており、21~23年の3カ年で1000億ドルの投資を行うことをすでに公表済みだ。ただし、この投資額には熊本新工場のような比較的新しい案件は含まれていない。
―― 先端プロセスの状況は。
小野寺 次世代のN3は予定どおり22年後半から量産開始予定だ。N5の拡張版としてN5Pの量産をすでに開始しているほか、「N4」「N4P」「N4X」といったN5ファミリーにおけるポートフォリオの拡充を進めている。
―― 最後に日本法人の総括をお願いします。
小野寺 21年は会社全体で前年比24%増の売上成長を見込んでいる。日本法人はこれを若干下回る見込みだが、かなり近い数字となるだろう。既存のキャパシティーが大きく増えないなかでは非常に健闘できたと思っている。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2022年1月6日号4面 掲載