電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第463回

振り返れば半導体産業が世界の発展のキーワードになってきた!


インドも本格参戦し、政治は自由主義と共産主義のガチンコ激突の様相

2021/12/24

2021年は半導体製造装置が大活躍の年(東京エレクトロン熊本)
2021年は半導体製造装置が大活躍の年
(東京エレクトロン熊本)
 まことに小さな国のことが少し話題になっている。それは新型コロナウイルスの感染押さえ込みである。世界すべてで再拡大という中にあって、日本の感染一気シュリンク、そして圧倒的な死者の少なさが多くのマスコミで取り上げられている。集団免疫ができている、日本人のDNAにコロナをおかしくさせるものがある、マスク着用を全く止めない、などその原因についての議論がかまびすしい。

 それはともかく、2021年を振り返ってみれば、コロナの爆裂感染、その中での東京オリンピック開催、そして米中対立の激化など、いやはや何ともかなりひどい年であったことは間違いないのだ。バッハ会長は、東京五輪について「日本だからできた。東京だからやり切った」と手放しで称賛したが、素直に一国民として、これを喜びたい。

 ただ、ここにきて北京オリンピックの政治的ボイコットが米国を筆頭に相次いでいる。何と悲しいことなのか。世界はひとつ、というオリンピック精神はもう地に落ちたのだ。米中対立は貿易戦争の形を取っているが、何のことはない。つまるところ、共産主義と自由主義の政治経済体制の真っ向勝負になっている。それも世界の覇権をかけてのことだ。

 ゴルバチョフの登場でソビエト連邦が崩壊した時には、世界のメディアは「マルクスレーニン主義の壮大な実験は完全な失敗に終わった!」と書き立てた。しかしてもうひとつの共産主義大国の中国の急拡大を、誰が予想できただろうか。少なくとも1990年代初頭においてである。ましてや、米国独り勝ちと言われた時に、中国が米国を経済でウチ倒してしまう予想は難しかった。ただ確実にそれは来るだろう。

 米中対立は近時、半導体の覇権争いに、その姿を変えてきた。IoTの進展、SDGs革命、超高速時代の到来、さらには軍事防衛、安全保障、サプライチェーンなどすべてのキーワードは半導体にあるという認識が世界各国において拡がってきた。まさに、「半導体を制するものが世界を制する」時代がやって来たのだ。

 腰の重かった日本政府もこの状況をはっきりと理解し始めた。世界最大の半導体フアンドリー企業である台湾TSMCにおける新工場の熊本誘致が、その表れである。岸田首相は「SEMICON Japan 2021」に送ったビデオメッセージで、「半導体強化のために官民で1兆4000億円の投資が必要だ。全力を挙げて開発、製造を支援する。」とのコメントを出されたという。そして東京大学、東北大学などは画期的な低消費電力の半導体開発に邁進している。日本のお家芸である半導体装置、半導体材料の分野においては巨大設備投資が目白押しだ。

 半導体製造でまったく遅れを取っていたインドが、半導体企業の誘致の強化策として1兆1000億円の助成金を出すと言い出した。投資額の最大50%を補助するというのだから、これはただ事ではない。インテルはマレーシアに約8000億円を投じて、パッケージ新工場を建設し、後工程重視の姿勢を強めている。

 こうした動きの向こうには何が見えてくるのだろう。やはり、なりふり構わず半導体に巨大投資を断行する中国政府に注意しておこうという考えがあるのだ。中国は台湾を想定した軍事訓練をやっている、ともいわれており、これは世界各国を震撼させることではある。台湾は今や世界の先頭を行く半導体王国であり、これが中国の傘下になれば、世界の情勢は一変してしまうからだ。台湾TSMCの新工場を米国に、日本に、そしてドイツにという流れは、もしもの時のリスクヘッジと見えなくもない。

 来るべき2022年はどのような年になるのだろう。NHKの年末特番の「ゆく年くる年」はいつも日本各地の年越しの光景を映し出し、「来年こそは、平和と安寧の年になりますように!」と締めくくるのであるが、正直言ってこの願いがかなえられたことはない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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