今年はスターバックスコーヒーが日本上陸25年の節目の年となるわけだが、その取り組みはいつも我々を驚かしてくれる。筆者が国内でスタバと出会ったのは、赤坂だった。筆者がかつて商業施設新聞の姉妹紙にあたる半導体産業新聞(現・電子デバイス産業新聞)編集部に在籍していたころ、当時東京・赤坂のTBS放送センター内に本社を構えていた大手半導体装置メーカー、東京エレクトロンの取材の前に必ず立ち寄っていたのが、赤坂の店舗だ。当時、1996年に銀座に日本1号店がオープンしたのは知らなかったが、それより前に、ロサンゼルスの商業施設で利用したことがあった。あの緑の人魚のマークが印象的だった。90年代後半、あの人魚マークがオシャレアイテムにどんどん昇華し、スタバブームが押し寄せているのを感じた。特に印象に残っているのが、渋谷スクランブル交差点前のTSUTAYA店だ。コラボ店は今でこそ珍しくはないが、あんな一等地にTSUTAYAと組んで出るなんて、何か仕掛けているニオイがプンプンし、新しいライフスタイルが提案されていくのだなと思ったものだ。
それから数年後、商業施設新聞編集部に異動となり、そのすごさを目の当たりにしてきた。過去の記事を検索すると、ちょうど10年前の2011年12月16日に隈研吾氏との初コラボとなる、「太宰府天満宮表参道店」がオープンしている。その後も様々な店舗で両者はタッグを組んでおり、その集大成ともいえるのが、19年2月28日、東京・中目黒にオープンした「スターバックス リザーブ ロースタリー東京」だ。ちなみに同店のコンセプトは「プレミアムで突き抜けたコーヒー体験を提供する店舗」なのだそうだ。全外壁を杉材で覆ったユニークで革新的な外観に、店内は4フロアの店舗構成で、コーヒー豆の焙煎工場と店舗が一体化した、まさに“コーヒーのワンダーランド”。入店してまず目に飛び込んでくるのは、4階の高さの吹き抜けにそびえ立つ高さ17mの銅板のキャスク(コーヒー豆貯蔵庫)。職人の手作りによる2100枚の桜の花びらで装飾されており、予想をはるかに超えた期待を裏切らない、のめりこむような感覚は、“やってくれた”感満載だ。
隈氏とのコラボ以外にも、スタバは様々なデザイン店舗や立地で出店してきた。例えば、日本三景のひとつである宮島に出店した「厳島表参道店」がある。また「京都二寧坂ヤサカ茶屋店」は、京都市東山区の二寧坂にオープンした築100年を超える2階建ての伝統的な日本家屋の店舗で、「平成30年度京都景観賞」の「屋外広告物部門」で市長賞を受賞した。そのほかに、旧薩摩藩主、島津家ゆかりの登録有形文化財「旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所」、今年の春には「伊勢 内宮前店」でお伊勢さんに進出するなど枚挙にいとまがない。
スタバは常に新しい何かを提供していると思ったら、2013年9月に1000店に到達、19年に1500店を達成した。強力なブランド力は、ショッピングセンターなどから出店要請が絶えず、同一のショッピングセンター内で2店出店している例も少なくない。現在、1700店に迫り、今や日本のコーヒーチェーンナンバーワン座をゆるぎないものとしていた。とかく「店舗数何店」が好きな本紙媒体の性格上、こうした数字にも惹かれる。また、昨年7月にはスタバは聴覚に障がいのあるパートナー(従業員)を中心に手話を主なコミュニケーションとした「サイニング ストア」を東京・国立市にオープンした。こういうことにも取り組むのかと思った。
グリーナーストアフレームワーク認証した
日本1号店の「スターバックス皇居外苑
和田倉噴水公園店」
環境面の取り組みもちょっと他と違っていた。各社がLED照明の採用や、高効率な空調機や冷蔵庫などを少しずつ導入し始めたころの2010年には、米国の建築環境指標であるLEED認証店舗を福岡大濠公園店や京都リサーチパーク店などに拡大している。
環境面はさらに“深化”させている。店舗で使用する電力をCO2排出量ゼロの100%再生可能エネルギーに切り替えており、10月末には北海道、東北、沖縄を含めた約350店に広げる。さらに世界自然保護基金(WWF)と、国際認証「グリーナーストアフレームワーク」を策定し、この国際認証を取得した店舗を拡大する。その実証実験店として12月1日に「皇居外苑 和田倉噴水公園店」を都内にオープンした。ここでは廃棄物削減を追求するカフェスタイルを検証する。同社はプラスチック製から、紙製ストローや紙製カップへの切り替えなど、使い捨てプラスチックを削減するアクションを行ってきた。さらに一歩踏み込んだ削減に向けて、ドリンクの提供の際に店内利用ではマグや樹脂製グラス、顧客が持参したタンブラーやカップ、持ち帰り時は、スターバックスのリユーザブルカップ(特別価格110円=税込み)を勧め、丸の内エリアで実証実験中の「借りるカップ」などと選択肢を増やすのだという。この本気度にまたもや驚かされた。こうした、常に意外性と楽しさを提供するあたりは、カフェチェーンでは他の追随を許さない。次の節目は日本上陸30年となる2026年だ。次はどんな驚きを提供してくれるのだろうか。