電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第459回

政府の言う「日本の半導体売り上げを30年に13兆円」に多くの疑問あり!


大型のセット市場なくして成長なし、計画の見直し必要

2021/11/26

 広島の呉市内を歩いていたら、信じがたい街角に突き当たった。戦後すぐの街並みが残っており、東京では絶滅したキャバレーの看板がいくつか見つかった。そしてまた、「ヤマハ公声堂」という広告板を見て、腰を抜かさんばかりに驚いた。

レトロな広島県呉市の街並みはいろんなことを教えてくれる
レトロな広島県呉市の街並みは
いろんなことを教えてくれる
 呉のヤマハ公声堂とは、言うところの音楽教室なのである。これを見てヤマハショップの全盛時代を想い返した。ヤマハショップはヤマハのオーディオや楽器、さらにはレコード盤などを売っている店であり、一時期は日本国中にそうした店があった。横浜の繁華街にもヤマハショップはあったわけであり、筆者も高校生くらいまでは盛んにそこへ行き、レコード盤などを買ったものである。

 ああ、それにしても、世界のオーディオ機器がレコード全盛時代の時には、ヤマハを筆頭格にしてパイオニア、赤井電機、ビクターなど錚々たるオーディオメーカーが世界を席捲していた。ヤマハも自前で自社向けの半導体を量産し、浜松や鹿児島に大きな工場を作ったのだ。パイオニアもまた山梨に、自社向けの半導体工場を持っていた。

 思い返せば、2003年段階でも垂直統合で戦う日本は、デジタル家電で圧勝していた。デジタルカメラはソニー、DVDプレーヤーはパナソニック、液晶テレビはシャープなどが圧倒的に強かった。もちろん、こうした機器に搭載する半導体についても皆、トップシェアを持っていた。「今は昔」の物語である。

 2020年の日本の半導体生産は、8.3兆円まで凋落し、見るも情けない姿となってしまった。こうしたことを考えれば、政府自民党が徹底的な支援策を構えるということについては、いわば当たり前のことなのだ。ここで巻き返さなければ、もう次はない。いわば背水の陣で臨む必要がある。それゆえに異次元の半導体産業支援を、開発にしても、設備投資にしても断行すると政府は言っている。

 それはいいだろう。しかして、11月15日付の萩生田光一経産相の発言は、かなり問題であったと思う。すなわち萩生田氏は「日本企業の売上高目標は2030年に20年(4.5兆円)の3倍となる13兆円を目指す」と言ってのけたのだ。

 これをアクティブと見る人は、少し知慮が足りないだろう。2030年段階における世界半導体の売り上げは100兆円に達することがほぼ確実視されている。何のことはない。なんと2030年になっても、日本のマーケットシェアは現在の8.6%から13%に上がるだけなのである。これではどうにもならない。

 大型のセット機器であるスマホ、パソコン、液晶テレビなどで負け続けた結果として、そこに搭載するニッポン半導体もまた、負け続けた。大型セット機器で残っているのは自動車産業だけである。こちらは日本企業が世界の自動車生産台数の40%くらいの断トツシェアを持っているだけに、この車載向け半導体では負けるわけにいかない。とりわけパワーデバイスは重要であり、ここを強化するという政策は政府も出している。

 しかしながら、もっともっとデータセンターであるとか、エッジサーバーであるとか、さらには次世代IoTの他のセット機器についても日本政府は育成を強化しなければ、結果的にはそこに搭載する半導体で負けるのだ。よくよく考えてみなければいけない。

 最も半導体だけではなくて、SDGs革命を重視するという視点から、萩生田経産相は、自動車やデータセンターの蓄電池の大型工場立地を促進するとは発言している。それにしても、セットに取り組まない限り、本当の意味での復活はない。

 世界的な半導体不足は続いており、22年末までは手当は完全にはおぼつかない。自動車に至っては23年前半まで潤沢な供給はできないとさえ言われている。こうした混乱の中にあって、自民党および経産省が打ち出す次世代半導体の国家支援プロジェクトは、さらに精細に洗い直さなければいけない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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