総合商社の丸紅(株)は、(株)ロジック・リサーチ(福岡市早良区)や、ダイヤゼブラ電機(株)(大阪市淀川区)と連携し、半導体の少量生産プロジェクトを計画している。独自の開発・製造スキームによって短期間かつ低コストでカスタムIC(デジアナワンチップ)の開発・製造が可能となるもので、2023年の事業開始に向けて取り組みを進めている。今回、同プロジェクトを主導する化学品第四部イノベーション推進室長の山田理一氏に話を伺った。
―― 化学品第四部の事業内容から伺います。
山田 私が所属する化学品第四部では太陽光パネルや半導体、ディスプレー、電池製造に使用される電子材料・無機資源および製造装置に加え、太陽光発電システムや蓄電池を主に扱っている。そのなかで、新たなビジネスモデルや取り込めていない成長領域を追求すべく、部内にイノベーション推進室を設置し、AI画像診断支援サービスや、ブロックチェーン技術を利用した環境情報トレーサビリティーソリューションなどの提供も進めている。
―― そのなかで半導体関連のプロジェクトも進めておられる。
山田 イノベーション推進室における新たなプロジェクトとして、少量半導体デバイス供給プラットフォーム「LDIC(エルディック)」の構築に取り組んでいる。ファブレスIC設計企業のロジック・リサーチや、半導体デバイス・プロセス技術に強みを持つダイヤゼブラ電機と連携し、少量対応の回路設計ならびに独自開発のプロセス技術を活用して、半導体デバイスのロングテール需要にアプローチするというものだ。現状はまだ構想・計画段階だが、今後、当社、ロジック・リサーチ、ダイヤゼブラ電機の3社を中心として、設計をロジック・リサーチ、製造プロセスに関する領域をダイヤゼブラ電機、そして当社は事業の統括・運営を主に担当し、まずはカスタムICの提供を23年から開始する予定だ。
―― カスタムICから始める理由は。
山田 近年、IoT技術の広がりなどによって、様々な分野の機器制御において半導体の重要性が増している。しかし、その中身を見ていくと、産業機器、情報端末、FA機器、業務用空調機器、メーターといった少量生産品の大半はカスタムICではなく、ロジック、メモリー、アナログといった複数の半導体チップを基板に接続したモジュールが搭載されている。カスタムICによって機器の小型・軽量化、低消費電力化などのメリットがあるものの、それ以上にカスタムICの開発にかかる時間やコスト面の問題が大きい。LDICの少量製造方式によってそういったデメリットを大幅に低減できる。
―― その製造方式について教えて下さい。
山田 現時点での製造方式は、主に国内ファンドリーで配線層の一部までの製造を委託し、それ以降の製造工程をLDICのプラットフォーム内のマザーファブで行う。そのうち、配線パターンの形成に関してはフォトマスクを使用せずに直接描画装置で実施し、ウエハーをダイシングしてパッケージ工程や試験工程を経てカスタムICとして出荷するという流れだ。これにより短期間(最短2カ月)でカスタムICを開発でき、少量生産(最少400個)も可能となる。開発費用についても、通常であれば1000万~1億円程度かかるが、LDICでは100万~500万円程度に抑えることができると考えている。
―― 今後の方向性は。
山田 先に述べたように23年の事業開始を目指しており、それに向けて22年はマザー工場の立ち上げ、量産プロセスの構築、品質保証方法の確立、マーケティングなどに取り組んでいく。目下、実際のICユーザーも入った仕様検討を進めており、ご興味ある方はぜひ問い合わせいただきたい。マザー工場に関しては国内に設置する方針で、現在場所の選定などを進めている。
半導体の重要性がグローバルで高まるなか、日本における半導体製造能力は過去20年にわたり減少傾向にあり、海外への依存度が年々高まっている。日本の半導体技術者も減少しており、当社としてはLDICをEOL対策など半導体でお困りの方の駆け込み寺のような存在にしていくとともに、日本における半導体市場の活性化や技術継承などにも貢献していきたいと思う。
(聞き手・副編集長 浮島哲志)
(本紙2021年10月28日号1面 掲載)