KiQ Robotics（株）（キックロボティクス）は、産業用ロボット関連の機器や技術開発などを行うスタートアップ企業。2枚の写真を撮影・登録するだけでロボットに作業指示ができる「Quick Factory」（クイックファクトリー）など、最先端のロボット工学技術を用いて、ロボットを誰でも使えるものにする取り組みを進めている。今回、代表取締役CEOの滝本隆氏に話を伺った。

―― 貴社の事業概要から。
　滝本　2019年4月に設立したスタートアップ企業で、「誰でも簡単に使える産業用ロボットを世界に」を企業ビジョンとして掲げ、低付加価値労働の自動化による省人化を目指し、これまで人にしかできなかった多くの作業をロボットで代替することを目指している。その一環として柔軟な指を持ったロボットハンドを展開している。通常、ロボットハンドは対象物によって交換ならびに調整する必要があるが、当社のロボットハンドは指先の柔らかさによって、様々な形状の対象物をハンドリングできる。

―― そのほかの製品は。
　滝本　3Dカメラで撮影した2枚の写真を登録するだけでロボットに作業指示ができる「Quick Factory」を2月に発表した。ロボットハンド、ビジョン、システムの統合制御エンジン、アプリケーションソフトなどで構成されるシステムで、当社のソフトウエアを搭載したPCを既存のロボットアームにEthernetで接続し、作業前と作業後の写真をシステムに登録するだけで、ロボットへのティーチングが行える。例えば、箱詰め作業をロボットにさせる場合、箱詰め前と箱詰め後の写真を登録するだけで、その途中経過に必要なロボット動作のプログラムをQuick Factoryが自動生成する。これによりロボットの知見がない人でも簡単にティーチングやセットアップができ、通常3日程度かかるようなロボットの立ち上げ作業を15分程度に短縮できる。

―― そのほかにQuick Factoryの優位性は。
　滝本　Quick Factoryには、先に述べた当社独自のハンドも組み込まれていることから、個体差がある対象物でもその差分を柔軟な指先で吸収してハンドリングできる。また、複雑な形状の対象物を扱う作業や、1回の工程で複数の種類のもの扱う作業でも強みを発揮でき、電子・電機分野などで多く行われる複数部品を1つのトレーにセッティングするような作業などでもその有用性を発揮できる。

―― 現在の取り組みは。
　滝本　ロボットシステムインテグレーター（SIer）の（有）ICS SAKABE（北九州市小倉北区）と連携して、製造業を中心にQuick Factoryの提案を進めており、本格採用の事例も出てきている。また、Quick Factoryの一部システムを活用したPoC（概念実証）なども増えている。9月には北九州市による「令和3年度　スタートアップSDGsイノベーショントライアル事業」に採択され、ロボットハンドやQuick Factoryの提案体制などを強化している。

―― 開発面の取り組みについて。
　滝本　Quick Factoryをさらに導入しやすくするために、各用途に最適な機器の構成をパッケージ化していく考えで、まずは工作機械へのマシンテンディング向けや廃棄物処理現場向けのパッケージなどを構築していく予定だ。また、ロボットが活用されていない領域での展開も進めていければと考えており、その1つとして、静岡県藤枝市による「令和3年度　藤枝市オープンイノベーション推進事業」に8月に採択され、苺のパック詰め作業をロボットで効率化する取り組みを進めていく予定だ。

―― 今後の方針を。
　滝本　現在、産業用ロボットを活用する場合、SIerや専門のエンジニアがティーチングや現場での調整などを行うことが一般的だが、今後は専門知識のない方でも簡単にロボットを活用でき、誰もがロボットによる自動化を実現できる世界にすることが重要になるとみており、Quick Factoryをはじめとした当社の技術がその世界の構築に貢献していければと思う。事業面では22年春ごろに資金調達を行い、その後、注力領域をある程度定めて本格的な市場展開を進めていき、中期的にはIPOも目指していきたいと思う。