商業施設新聞
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No.825

挑戦の秋


岡田光

2021/9/28

 12月を“師走”とはよく言ったものであるが、商業記者の私にとって、開業が集中する秋がもっとも忙しい季節の一つ。特に今年の10月は、“師走”どころか、“忙殺”の1カ月となりそうだ。例年、10月は決算説明会と商業施設の開業が重なり、慌ただしく動き回っているが、今年は商業施設の開業やリニューアルオープンが集中する。四国エリアでは、松山三越がリニューアルオープンするほか、高松三越がサテライトショップを新規出店。中部エリアでは、郊外開発の雄であるイオンモールと大和ハウス工業が新たなショッピングセンターを開業し、愛知県内に立地する三井不動産のららぽーとやセブン&アイ・ホールディングスのプライムツリーに対抗していく。そして、関西エリアの大阪府では、「阪神梅田本店」がいよいよII期をオープンする。まさに“忙殺の秋”と言えるだろう。

 これだけ開業や改装オープンが重なったのには理由がある。ひとつは、今年が東京オリンピック・パラリンピック明けの年であること。本来ならば、オリンピックは昨年開かれていたため、関東以外の地域では話題をオリンピックにさらわれないように、今年以降に開業やリニューアルを計画していた。結果としてオリンピックは延期されたが、今秋に開業や改装案件が重なるのは、こうした各社の思惑がある。もうひとつは、百貨店各社の新たな挑戦だ。阪急阪神百貨店はもちろんのこと、四国の2社(松山三越、高松三越)も新型コロナウイルスの流行で厳しい業績が続く。だからと言って、指をくわえて見ているだけでは、閉店という最悪の未来が訪れてしまうため、攻めの取り組みをする。

 特に松山三越の取り組みは注目に値する。同社は地元企業との協業を掲げ、従来の百貨店運営を3フロアに集約。その代わりに、ホテルを導入するという、業界でもあまり例を見ない挑戦だ。松山市は道後温泉が近く、観光地としてのポテンシャルは持つが、京都や箱根、沖縄に比べると、見劣り感は否めない。百貨店とホテルをどのように結びつけ、相互誘客へとつなげていくのか、その取り組みに注目したい。

II期を開業する「阪神梅田本店」
II期を開業する「阪神梅田本店」
 他方、SC業界では生き残りをかけたサバイバルが本格化する。大和ハウス工業は、関東や沖縄で展開するSCブランド「イーアス」を中部エリアに初出店する。大和ハウスグループでは、2019年に大和リースが愛知県初出店の「フレスポ春日井」を開業したが、愛知県において大和ハウスグループのSCとしての認知度はまだ低い。同県ではイオングループやユニーを含めたPPIHグループの認知度が高い。最近でこそ三井不動産やセブン&アイ・ホールディングスの名前が聞こえているが、ロードサイドの雄である大和ハウス工業が、クルマ大国である愛知県民にどのように受け入れられるのか、その挑戦に期待したい。もちろん、イオンモールのオフィス複合型商業施設への挑戦も見逃せない。

 四国エリアや中部エリアで新たな挑戦が繰り広げられる中、大阪府ではターミナル駅である梅田の一等地に阪神梅田本店のII期がオープンする。非日常の「阪急うめだ本店」、日常の阪神梅田本店としてすみ分けを図り、スナックパークや阪神食品館といった「食」に注力してきた阪急阪神百貨店が、一体どのような百貨店像を披露するのか。コロナ禍では「食」の表現が一番難しいと思われるが、それを長年アピールポイントとしてきた阪神梅田本店にとっては、新たな「食」を見せる絶好の機会だ。百貨店業界の将来を見据える上でも、同社がどのような売り場を形成するのか、そしてビル全体でどのような相互誘客の手段を編み出すのか。例年、秋は「読書の秋」「食欲の秋」「スポーツの秋」など様々な言葉が囁かれるが、今年は「挑戦の秋」がそこかしこで聞こえるかもしれない。
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