(株)JOLEDは、2015年1月にソニー(株)、パナソニック(株)の有機ELディスプレーの開発部門を統合して設立された。17年12月には、パイロットラインで生産した印刷方式の有機ELディスプレーの出荷を開始し、19年11月には量産工場の能美事業所(石川県)の稼働を開始した。ソニー時代から20年以上にわたり有機EL事業に携わってきた、代表取締役社長の石橋義氏に、事業戦略や製品展開などについて伺った。
―― 20年6月に、中国・CSOTとの大型パネルの共同開発を発表されました。現在の進捗などを。
石橋 20年の11月からCSOTの技術、開発担当者が来日され、能美事業所、千葉事業所(千葉県茂原市)において共同研究開発を進めている。詳細は申し上げられないが、期間は3年間で、ゴールに向けて各フェーズを着実に進められている。現在量産展開している中型パネルのバックプレーンはLTPS(低温ポリシリコン)だが、TV向け大型パネルでは8.5G以上のラインになるため、酸化物半導体のTAOSを採用すべく、開発を進めている。
―― 21年3月から量産出荷を開始しました。21年度の売上規模について。
石橋 19年度の売上高は19億円、20年度は59億円となった。これは、従来のパイロットラインでの生産から、5.5Gサイズで月産2万枚のキャパを持つ能美事業所、後工程の千葉事業所の稼働開始が大きく寄与している。21年度にフル稼働になるわけではないが、売上高としては前年度比2倍規模を想定している。
―― 事業戦略について。
石橋 (1)モニター、(2)車載、(3)ライセンス、(4)セットビジネスの4つを事業の柱として確立させていく。
モニター向けにおいては、すでに22、27、32型を量産出荷しているが、21年度は27、32型が主力サイズになる。プロ向けハイエンドモニターの市場を確実に獲得していく考えだ。32型では、すでにLG電子のモニターに採用が決定し、発売されている。
さらに今後は、民生用モニターのハイ~ミドルレンジモデルまで手がけていく計画だ。お客様との話が進んでおり、一般消費者が購入しやすい価格帯の製品展開が視野にある。
モニター市場は、新型コロナウイルスによる巣ごもり需要で活性化しており、民生向けでは追い風であるのが現状だ。プロ向けでは、この巣ごもり需要の影響はないものの、医療用において遠隔診断用途でより繊細な色表現が求められるようになってきており、今後の展開に期待している。
―― (2)車載については。
石橋 車載向けでは、10~12型サイズの需要が大きく、開発に注力している。後部座席のエンターテインメント向けから、クラスターやCID向けなど、すべての車載ディスプレーでの採用を狙う。
3つのディスプレーをつなぎ合わせて1枚パネルに見えるようにする、ピラーTOピラーの3in1パネルの開発も進めている。有機ELの特徴を活かした曲面パネルで、デザインに応えられるという、有機ELならではのアピールができる製品分野だと見ている。
―― (4)セットビジネスとは。
石橋 当社はパネルモジュール化までを手がけ、セットの組立は社外に委託する。これにアプリケーションまでを搭載した事業展開を計画している。直接UX(ユーザーエクスペリエンス)の提案もしたいと考えている。先がけに、JOLEDブランドの27型モニターを、「能美記念モデル」としてステークホルダー向けに限定販売した。能美市では、20年10月に開設した「能美ふるさとミュージアム」へ、複数枚のパネルをタイリングした大型モニターの導入を発表されており、こういった展開を増やしていく計画だ。
―― (3)については、CSOTとの共同開発も始まり、今後が楽しみですね。
石橋 そのとおりだ。当面は同社の大型パネルの量産化に注力していく。将来的には、市場・業界活性化のためにも様々な企業と組んでいきたいと考えている。
日本の中でのものづくり、特にパネルビジネスは簡単なことではない。当社は大型投資を行って、大量生産によるコスト優位性を競争軸にするわけではない。では、どのように差別化を図るのか。その答の1つが技術ライセンス供与だ。印刷方式で有機ELパネルを量産できるのは世界でも当社が唯一であり、材料、装置、生産プロセスも唯一のものだ。この技術を広く展開し、市場全体の活性化を図ること、また、従来のような部品売り切りではない、新しいビジネスを当社から提案していくというフェーズに、やっとたどり着いたという思いがある。
―― 基板のフレキシブル化など、開発ロードマップについては。
石橋 フレキシブルデバイスは全く新しい市場になるため、マーケティングを進めている最中だ。近年増えてきつつあるフォルダブルディスプレーは、新聞のような携帯性と一覧性の両立をかなえたデバイスだ。この用途以外に、曲げて円筒にすることでどこからでも見られるとか、軽量で持ち運びが楽というような訴求点は提供できるが、ではそれがどういう製品に使われるか、その見極めが非常に重要になってくると考えている。
現在量産している製品の基板はリジッドで、開発はリジッドもフレキシブルも進めている。開発ロードマップとしては、現行製品をGeneration1(G1)、そこからさらに高輝度化、高速駆動化を図ったものがG2となる。G3では、形状を変え、様々なデザインに応えられるものが視野にある。G2は23年ごろ、G3は23~24年ごろの市場展開を目指している。
(聞き手・澤登美英子記者)
(本紙2021年9月23日号6面 掲載)